第23話 初仕事ー1(改稿済)
英雄譚を見せてやるッ! ……なんてカッコつけて言ったが、来週の火曜午前10時までは貴族の男からの迎えとやらは来ない。
ってか、そういやあの人の名前聞いてねぇな……。
誰だよアイツ。
でもリーリンに俺の情報を聞いたんだったよな? ならリーリンは知ってるかも! そう思った俺は、リーリンの前に並んでいる人がいなくなるのを仲間たちと駄弁りながら待って話しかけた。
「なぁ、リーリン」
すると、
「はいはい! なんで……あ、ウィリアムさん。あー、やっぱり怒ってるよね。ごめんなさい」
如何にも罪悪感で胸が一杯です! って感じで目を背けながら謝ってきた。
しかし、怒ってるだって? 一体何の……あ、そういえば。
「いやいや、別に怒ってないよ。リーリンは仕事をしただけだし、俺は英雄になる為にこの国に来たんだぜ? むしろ積極的にアピールしてくれて全然構わない」
俺の情報を話したことに罪を感じてるんだったと思い出しそう言うと、
「え……でも、
俺が怒っていないコトが分かり一瞬安堵したように胸をなでおろしたが、思い直したのかセラフの情報について語りだした。
だが、そんなコトは承知の上だしそも俺は奴に会うコトが目的でもあるのだ。
「それでも、気にするな。俺様は君がそうやって苦しそうにしている方が辛い。だがどうしても、というなら……俺様達新人でも出来る割のいい仕事をくれ」
ふっふっふ、俺様は辛そうにしている女の子のフォローも出来る子なのだ! まぁ、実際に効果があるのかは知らないけど……。
でも以前こういう風に慰めたら泣き止んでくれたし、多分大丈夫だろ!
何より、女である先生が『女の子が泣いたらね、こうやって慰めなさい?』と言って教えてくれたやり方だ! 間違っている筈が無い! ……多分。
いや! 実際、俺様もお礼をしたい人にただ気にするな、と言われるより何かしろって言われた方が気が楽になるしやはり間違ってない! うんきっとそうだ。
まぁ、そんな訳で俺様は感謝の気持ちは素直に受け取ると決めてるし、お礼の品もしっかり貰う。 ……まぁ、あまり高価過ぎたら流石に遠慮するけど。
ちなみに、アスラエル王がまだ少女だった時に一度助けたコトがあるのだが……。
その時あの人が俺に『そなたにやるにはちと稚拙だが礼の品だ』とか言ってプレゼントしてこようとしたのは西方大陸の名物"黒コショウ"10キロ。
うん、焦ったよね。
いやだって……助けたっつってもナンパされてたから『俺様の妹に何をしている?』とか適当なホラ吹いて散らしただけだぜ? 普通に商品として売れば国家予算約1年分にも等しい価値を産むというのに……。
流石に大袈裟すぎると思うんだ? 命を助けた、とかならまだしも。
その上『そなたにやるにはちと稚拙だが』だぜ? 稚拙とは一体……。
で、『旅をするには重すぎるし邪魔』と言って断ったんだが……。
「……ッ! 分かりました、ではとっておきのをご紹介します!」
その代わりに貰ったのがまた……。
……っと、しまった。
昔のコトを思い出していたら話を聞き逃してしまった。
まぁ幸い肝心な部分は聞き取れたし別にいっか……って、なんでリーリンの顔赤いんだ? んー、分からんな。まぁいいか。
「うむ、そうしてくれると俺様も助かるのだ! で……そのとっておきのとは一体何なのだ?」
「はい、このクエストです」
そう言ってリーリンが見せてくれた羊皮紙にはこう書いてあった。
===============================
竜草の採取
依頼者:アラルガンド=S《シュメール》=ロウダー
金額:1グラム/金貨1枚
備考:採れるだけ採ってこい
※全て摘むのは禁止(絶滅しては困る)
===============================
……これ、ルードゥにおつむ弱いって言われた俺でも分かるよ。
おもクソ王家からの依頼じゃねーかッ!? え、これ新人がやってイイもんなの? 大丈夫なのか? これ……。
「あー、リーリン? これ王家からの依頼だよな。俺達新人がやっていいモンなのか?」
「あぁ、それでしたらご心配いりません! これは常駐依頼ですから」
「というと?」
「今この国は英雄育成に力を入れてるじゃないですか。だから回復薬が大量に必要なんです」
「ふむ……成程な」
しかし、竜草……ね。
知ってる。
俺の世界でも絵物語の討伐対象として度々現れるからな。
まぁ実在してはいなかったけど。
アレのことだろ?
どういう意味でその名をつけたんだろ、竜は回復力が凄いんですよ~みたいな? それとも竜の塒にしか生えてないから、とかか?
まぁ、分からんけど……。
回復薬の素か。
「了解だ、そのクエストを受けよう。報酬も高いようだし、採取ならわりかし安全な筈だ」
ヒーローにはなりたいけど……誰かを害するのは、誰かを傷付けるのは嫌だ。
そりゃあ、誰かを蹴落とす必要があるのは知っている。
だから俺はルールの上で、命を賭けない試合であれば幾らでも力を振るえる。
それに、また無茶をして仲間に心配かけんのは嫌だしな!
「分かりました、ではこの袋を貸し出しますので摘んだ竜草はここに入れてください。あ……別に『拡大化』のルーンを刻んだ魔道具とかではないので、気を付けてくださいね? 勘違いしてクレーム入れてくる人とか結構いるんですよ」
「へぇ~」
何いってんのかよく分かんないけど、とりあえず頷いておいた。
まぁでも、袋を貸してくれるってんなら有難い。
仲間たちに声をかけようとして、思い出す。
俺……リーリンにあの貴族のコトについて聞こうと思って話し掛けたんだった。
疲れてんのかな……? こういうのって、疲れてる時にありがちな現象だし。
例えばキッチンに行った時とか! 何かを取りたくて行ったのは確かなんだけど、何を取りに行ったのかまるで覚えていない……という
「あー、リーリン。一つ聞きたいコトがあるんだがいいか?」
「? え、えぇ。私に答えられるコトなら」
「あの貴族、誰なんだ?」
俺がそう言うと、リーリンだけでなく他の受付嬢やその前に並んだ人達。ロビーで、酒場で、テイムモンスターと戯れていた人達……このギルドに今存在している者全ての視線が俺に向いた。
……俺、何か変なコト言ったか? もしかして。
いや、言ったんだろうな……。
それによく考えてみれば貴族や有名人ってのは、他人が自分のコトを知っている前提で話を進める。
彼が名乗らなかったのもそれが理由だろう。
あー、面倒なコトになった……。
今のは明らかな失言だ。
「あー、済まん。田舎の出身なモノでな」
うん、嘘はついてない。
だって俺がこの世界で目覚めたのどこぞの暗闇だし、初めての文化圏がゴブリン村だもんな。
「そ、そう……んんッ! じゃあ説明させてもらうわね。彼は英雄育成計画部門長、シェガルド=
……うん、なんとなく予想はついてたよ?
英雄育成計画部門長とか言われた時点でさ。
でも流石に、公爵とは思わないじゃん! え、つまりこの魔導王朝のナンバー3ってことだよね!? やばい……ちょっ、え? マジか。
「……恥ずかしっ! あー、済まないリーリン。仕事して忘れるコトにする」
「あ、はい。気を付けてね~?」
はぁ……。
ホント、普段は視線を浴びせられても嬉しいだけか全く気にならないかなのに。
「くぅ、穴があったら入りたい……。行くぞお前ら!」
「ん、じゃあ行くカー」
「はい、張りきって行きましょう!」
「おう! で……ユーリとハルはどうする? 宿で留守番してるか?」
そう、この2人は家のコトを任せたいからメイドとして雇うって言ったんだ。
まだ街についていないならともかく、戦いの場まで連れて行く必要は無い。
「はい、私達は宿で留守を守るコトにします。外に持っていく必要のないモノなどありましたら、預かりますが」
「んー、じゃあ金を預かっといてくれ。ちと長くなるだろうからな」
「分かりました、お預かりします。ほらハル! 行くわよ」
「うん! ウィル様頑張ってね~!」
「おう、任せとけ!」
さて……行くか。
彼女らと別れ採取用に貸し出された袋を背負った俺は、ルードゥ達と共にギルド内にいる者らに浴びせられる視線から逃げるようにしてクエストに出掛けた。
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