第24話 初仕事ー2(改稿済)

 

 1日の移動距離はおよそ30キロ以下、というと多くの者が大して移動していないと考えるだろう。しかし、それは道なき道を、そして周囲を警戒しつつ、さらにそれなりの重さの荷物を持って……と、様々な状況を足していけばその意見は変わるのではないだろうか。


 移動は基本的に15時まで、場合によってはもっと前に終了するように動く。


 これは野営の準備に時間が掛かるというのが理由の1つだ。


 その中で最も時間が掛かるのは野営地の選択だ。

 何かの生き物の通り道……獣道から離れていること、雨が降ってきた場合に問題が無い地形か、夜行性のモンスターに襲われた時の対策などなど。

 そうやって広い範囲から野営に相応しい場所を発見するのは非常に面倒かつ時間のかかる作業なのだ。


 特に平原や草原などの障害物が無い地形だとその難易度はぐんと上がる。


 その為日が沈む前から野営の準備に取り掛かることになるのだ。




 近場に森があれば木を削りだして即席の陣地を作るが、その分森の近くでの少人数の野営は危険が大きい。野営地が大きくなればなるほど野生の獣や魔物は近寄らないし、ゴブリンやコボルトに代表される亜人らも攻めては来ない。

 逆に小さい場合は好奇心を招き、襲ってくる場合があるのだ。

 しかも亜人や魔物などは夜目が利くので、夜間戦闘はかなり危険を伴う。

 その為、現在の野営地は森から2キロ離れた、少しは安全だろうと思われる場所を確保している。

 

 ……まぁ、大体はこの世界の住人であり魔物なルードゥ達に聞いたコトだが。

 俺の世界には魔物なんて存在してなかったし。


「えっと、じゃあ次はそこにコレを刺してください」

「了解だ」


 ゴブ美ちゃんがそこらで拾った木の枝を、ルードゥが邪魔な部分を切り落として棒状に加工し俺がテントの周囲に突き立てて回る。

 テントの周囲と言っても、一辺20メートルにも及ぶから大変だ。

 4点に打ち込んだら、その次は枝から切り落として出来た蔦をその木の棒に巻きつけ囲いを作る。

 最後に蔦の中央に結び目を作ってそこからテントの前まで引き、ルードゥが加工した木の板を衝撃が与えられたら鳴るような位置に吊るしたら完成だ。


 要は鳴子による警戒網の作成である。


 これらを全て、俺が気絶している間仲間たちは俺を守りながら代わりにやってくれていたのだと考えると凄く申し訳なく思う。

 まぁ、だからってユーリ達を助けたコトを後悔するなんてのはあり得ないが。


 既に3日も同じコトをやっていれば慣れる。

 俺はさくさくと警戒網の作成を進める。

 ゴブ美ちゃんは手伝おうとしてくれたのだが、あの時代わりにやってくれたのだから、と今回のテント作成は俺が大体をやるコトにしたのだ。

 加工に関してはルードゥがやった方が早いから任せているが。

 ちなみに、加工の仕事が終わった為ルードゥは既にテントに戻ったようだ。


「お疲れ様です、ルードゥさん」

「うん、でも僕は平気だからウィルをお願イ」

「え、ウィリアムさんに何かあったのですか!?」

「いや、別にそういう訳じゃないケド、疲れてるだろうかラ」

「あ……そういう。はい、勿論です!」


 作業をしている最中さなか、テントの中からそんな声が聞こえた。

 ルードゥの奴……毒舌にはなったがやはり根本は変わってないな。

 ありがとうルードゥ、いつも頼りにしてるよ。

 でもゴブ美ちゃん? 俺も全然余裕だから心配しないで! 


 3分かかって警戒網を完成させた俺は、肩を回しながらテントに戻る。


「お疲れ様です。ウィリアムさん」

「おう、ゴブ美ちゃん。水とってくれ」

「はい」


 俺が水を頼むと、ゴブ美ちゃんが革袋をとってくれた。

 それは、爺さんから貰ったあの革袋である。

 ユーリ達に金銭を預けた為、地図入れとなったがそれではスペースが勿体無いと思い水筒にしたのだ。

 地図は懐に入れて保管しているので問題ない。


 水を飲みながら、リーリンに書いて貰ったクエスト用紙のメモ書きを見て改めて確認する。

 目的は竜草の採取、目的地はジグダートから南に5キロ程行った先にある洞窟。

 そこが、流星竜リンドブルムの塒のようなのだ。


 そんな場所に行って平気なのか? 勿論平気じゃない。

 だが流星竜リンドブルムってのは、その名の通り夜間は空を飛んでいる為一時的に巣をあけるのだ。

 その隙に潜り込み、竜草のみを回収する。

 下手に探りまわったりすると竜の逆鱗に触れてしまう可能性がある為、どの職種においても新人ベテラン問わずタブーとされているのだ。

 だが、何事にも例外というのはあるようで、隠蔽者と呼ばれる特殊な資格を持った者のみ竜の塒の探索が許可されている。

 それは、王立ち合いの下行われる試験をクリアし、ようやく手にすることのできる国家資格である。 



 それにしても、いつ見ても不思議なモノだ。

 実際にその力に助けられたのだし文句を言うつもりは無いが、何故彼女の回復魔法はあのような効果を持つのだろう。

 それとも彼女のが特別な訳ではなく、回復魔法自体がそういうモノなのか?


 俺が凝視しているのに気づいたゴブ美ちゃんが、笑みを浮かべて問いかける。


「どうかしましたか? そのような不思議そうな顔をして」

「あー、いや……ゴブ美ちゃんの回復魔法って凄くないか? それともそれで普通なのか? いくら才能溢れるっつったって、俺には不思議に見えてな」


 そう、俺の目にはどうにも彼女の回復魔法が特殊に映るのだ。

 

「あー、まぁ確かに私のは特殊ですよ。人間の使う回復魔法は、神への祈り……あくまで祝祷によるモノですから。よっぽど神に好かれた人物とかでもない限り私のように再生したりはしません」

「あ、そうなんだ。でもだったら尚更なんでなんだ? 才能どうのの問題とは思えないんだがな」

「はい、実際才能の問題ではありませんから」

「ふむ……じゃあなんなんだ?」


 ユーリ達を助けた時俺の手は焼けた上、皮膚もずたずたになっていた。

 骨は砕け欠片が飛び出していたし、脚も赤紫に変色していた覚えがある。

 なのに今じゃ何の後遺症もなくスムーズに動くし、傷痕一つない。

 

 人間が使う回復魔法は祝祷によるモノらしいが、では彼女のは一体なんだというんだ? もしかしたら……これが人間と魔物の決定的な差かもしれない。


「私の回復魔法は、細胞の再生速度を急上昇させるモノなんです。だからこそウィリアムさんは一ヶ月も眠り続けました。ウィリアムさんの体力全てを傷の再生に集中させたからです。生物は起きているだけで相当なエネルギーを消費します。要はウィリアムさんの一ヶ月分の生命エネルギーを使って傷を治したんです」


 ……思った以上に科学的な理論が返ってきた。

 そっか、成程な……。

 ん? つまり俺が普段から鍛えてなければもっと時間かかってたってコトか? 


「もしかして、俺の体力がもっと少なかったら……」

「はい。最悪4,5年は寝たきりだったでしょうね」


 俺は今、初めて毎日頑張って鍛えていた過去の自分を心から称賛しているかもしれないッ! ゴブ美ちゃんの回復魔法……効果は凄いけど怖いよ!


 あれ……でも、それなら今やってんのは? 


「なぁゴブ美ちゃん、俺の傷のコトは分かったけどよ。その葉の成長速度を促進させんのはどうやってんだ?」

「ウィリアムさんの身体を再生させたのと同じ理論です。この葉に宿る生命エネルギーを使って急成長させているだけですよ?」

「あー、つまり……成長も早いけど死ぬのも早い的な?」

「はい、その通りです。花丸あげちゃいたいぐらいの大正解です」


 んー、この娘……さてはナチュラルサイコパスって奴だな!? 

 ゴブ美ちゃんの回復魔法に頼る機会は、可能な限り減らそう……あと、やっぱり日課もうちょっとキツくしよう。

 また傷を負った時の為にも、ヒーローになる為にも、体力は必要だからなッ!


「あのさ、そろそろご飯にしなイ?」

「ん? あー、そうだな。よし! 飯だ飯。腹減ったぁ」

「はい! そうしましょう♪」





 テントから少し離れた所に、警戒網作成を開始する前予め設置しておいた木製鍋。これもやはりルードゥに加工してもらったモノである。

 いやホント、ルードゥ器用すぎじゃないか? だって手が刃物なんだぞ。

 もし俺がルードゥだったら絶対あんな上手く行かないよ。

 

「ホント、毎度毎度凄いな。ルードゥは」

「え、何? いきなリ……」


 カマキリであるが故に、表情に一切の変わりはない。

 だが俺は断言できる。ルードゥは今、鳩が豆鉄砲を食らったような気持ちになっているに違いないッ! 

 

「はっはっは! いや何……もし俺がお前の立場になったら、絶対そんな風に上手く加工できないだろうな~とな」

「あぁ……まぁこれでも、16年マンティスやってるからネ」

「ん? え、お前16歳だったのか?」

「うん、そうだヨ」 


 マジか……。

 めっさ長生きやん。

 まぁ魔物だし、ただの虫とは違うか。

 それに、折角仲良くなったんだ。

 ただのカマキリと同じぐらいの寿命だったとしたら悲し過ぎる。


 時刻的には17時ぐらいか。

 少しづつ日が傾きつつあり、あと1時間半ぐらいで完全に沈むだろうか。

 食事をするには早い時間と思うだろうが、それは旅慣れていない者の考えである。



 そこらに落ちていた石で造ったかまどに火を起こす。


 火を起こす方法は簡単だ。


 かまどに獣脂をたっぷりと染み込ませた布を投げ込み、そこに火打ち石で火をつける。あとは薄く削った枝と太い枝を上手く入れるだけだ。

 予想を裏切らず炎は勢いを増し、竈一杯に膨れ上がる。


 これに関してはルードゥ達からの受け売りではなく、俺自身が旅をして培った知識であり技術だからわざわざ教えて貰わずとも素早くミス一つなく出来る。

 そう、クエスト遠征初日……俺は警戒網の作り方やテントの作り方は知っていたし、野獣対策、天候対策などは頭にあったが魔物対策は全く考慮していなかった。

 そのせいでゴブ美ちゃんに、『待ってください、そこでは襲ってくれと言っているようなモノです』と注意されてしまったのだ。


 いや、無論無知を恥じるのではなく学ばぬコトを恥じるべきなのは分かっているが、グレートでクールなヒーロー(予定)としては格好をつけたかった……。

 





 かまどにかけられた鍋から、シチューの煮込む音がぐつぐつと聞こえる。

 周囲にもそのかぐわしい匂いが立ち込めていた。


 普通の旅だと、シチューのような水を使う食事は滅多に食べるコトはできない。


 それは水が貴重品だからだ。

 水は、成人した人間の場合1日に2リットルは必要とされる。

 その法則に従うと俺達は3人組なので最低6リットル、つまり6キロは1日の水分で荷物が嵩張かさばるコトを意味する。

 それ以上ともなるとそれ以外の荷物が持てなくなり、かなりキツくなる。


 その為、通常の旅では途中で水を補給するコトを念頭に組み立てるが、俺達は今日に至るまで一度も補給をしていない。

 既に街を出発してから3日が経過しているのにもかかわらず。


 これは3人の内、水分を多量に必要とするのが俺だけである為だ。

 ゴブ美ちゃんは魔力を直接扱うことができるから生命維持に必要な魔力を食事などを介さず大気から直接摂取する事が出来るし、ルードゥはそもそも食事や水分をあまり必要としない。

 そう、実質確保する必要があるのは俺一人分と言える為非常に余裕があるのだ。

 まぁ一緒に食った方が楽しいから、結局飯は3人分ちゃんと確保するがな。

 

 ここで一つ疑問が湧く。

 そう、魔力を直接大気から摂取できるなら何故ゴブ美ちゃんは進化しないのか? という点だ。

 ゴブ美ちゃん自身にも分からないらしいからなんとも言い難いが、恐らくは人間の血が強いからなのだろう。

 というか、それ以外に考えられるモノがない。

 しかし、彼女も原典ではなく魔石らしいし…良く分からないな。



 さて、シチューが煮えるまでに刀の点検をしておこう。

 ようやくちゃんとした文化圏に辿り着けたから、武器整備に必要なモノを一通り買っておいたのだ。


 刀についた血を拭いた後オイルを塗布する、錆びないようにする為だ。……というか、これまで碌に整備できなかったのに何故もったのだろう。

 別に特別なモノでもなんでもない、露店で買った唯の安刀やすがたななのに。

 まぁ……バロン王国で店を出してるんだからそりゃ腕が良くて当たり前か! それに、あの露店の主人確かどっかからの流れ者だった気がする。

 もしかしたら、値段以上の物なのかもしれないな。知らんけど。


 オイルを塗ったら、次は歪みが無いかを確認する。

 ほんの僅かな歪みでも、感覚に誤差が生まれる為命取りになるからだ。


 


 魔物との戦闘は今日だけで3回、クエスト遠征に出てから合計で10回あった。

 どれも言葉を話せるであろうゴブリンやコボルトなどの亜人だった。

 俺はあの時ゴブ郎達と仲良くなった時と同じように、仲良くなる努力をした。

 話しかけてみたり、飯をあげたりなどだ。

 だが、彼らは襲い掛かってきた。

 ルードゥのようにあの罅が走っている訳でもないのに、だ。

 


 背筋に罪が這い登るのを感じる、生命を殺した罪が。

 だが割り切ろう……。

 生きる為には、必要なコトなのだから。

 俺はあくまで家族や仲間にとってのヒーロー。

 敵対者にまで情けをかける程……優しくはないのだ。


 ちなみに俺達の負傷はゼロ、完璧な結果である。

 だがそれは装備に負担が掛からなかったというわけではない。


 袴がボロボロになっている(殆どはユーリ達を助けた時に出来たモノ)し、刀にもゴブリンの武器と打ち合わせた時の凹みができている。

 それらの応急修理は、命を賭ける仕事である以上当然のことだ。


 ……故郷の服だから、と新しいのを買うのは躊躇っていたが、そうも言ってられないな。このクエスト遠征が終わったら新しいのを買おう。


 刀はまだまだ使えると思うし、修理して使い続けるけどね!

 

「ウィリアムさん、シチューが煮えました。そろそろご飯にしましょ?」


 刀を整備していると、ゴブ美ちゃんに声をかけられた。

 十分周囲に注意を払っていた筈だが……。

 思った以上に整備に集中していたらしい。

 俺もまだまだだな……。

 グレートでクールなヒーローを目指す者として、成長努力は必須だ。今後は整備しながらでも周りに気を配れるようにならなきゃな。    


「おう、今行く」


 新鮮な肉と塩漬けの燻製肉で味付けしたシチューを、ゴブ美ちゃんが各員のお椀に注ぎ込む。それに固焼きパン、クルミ等のナッツ類が今晩の食事だ。


「ありがとよ」


 ゴブ美ちゃんに感謝を告げると、早速シチューの入った片手で持つのにちょうどいいぐらいのサイズのお椀を片手でグイっと口に運び飲む込む。

 少し強すぎるぐらいの塩味が、汗をかいた身体にしっかりと染み込んでくる。

 今日狩ったばかりの新鮮な狼肉の少し硬い食感、しっかりと味のしみ込んだ野菜。サバイバル食として考えると、味も栄養も、割と上等と言えるだろう。

 無論平常時の食事を考えれば決して上等とは言えないが。


 雑談を交わしながら食事を進めていると、一つの質問が議題にあがった。


「そういえば思ったのですが、ウィリアムさんが身に着けているその籠手って一体何なんですか? 他の装備とはまるで違うように感じるのですが」


 ゴブ美ちゃんの言う通りだ。

 この籠手は、俺の他の装備とは何もかもが違う。

 何故か? それは東方大陸製のモノではないからだ。


「あぁ、これはな……。西方大陸の王から貰ったモノなんだ」


 そう、あの時アスラエル王が黒コショウ10キロの代わりにくれたモノ。

 それこそがこの、アマゾネス・・・・・の籠手なのだ。

 

「西方大陸の王、ですか? 何故そんなモノをウィリアムさんが……」 

「……俺が15歳になって成人した時、国から自宅を持つコトや旅に出る許可が下りた。俺は中央大陸に行き、バロン王国で英雄となるコトを夢見て旅に出た。だが思ったんだ、このまま行っても経験不足が過ぎるって」


 そう、何もかもが足りな過ぎた。

 戦闘経験も、人生経験も、財力も実力も。

 だからこそ俺は世界を回った。

 その時3年後に迫っていた裁定祭に出場する為に。


「そしてある日、俺は西方大陸に行った。一面の砂漠と、照りつけるような日光。正直死ぬかと思った……。いや、熱さにやられて一度倒れた」

「え、大丈夫だったんですか!?」

「あぁ、落ち着け。俺が今こうして生きているのが何よりの証拠だろ?」

「そ、そうですね……」


 今だからこそ冷静に言えるが、当初の俺は本当に死ぬと思っていた。

 しかし、俺は生きていた。


 助けられたのだ、西方大陸の原住民……アマゾネスに。

 何故かは分からない……いや、本当は分かっている。

 アスラエル帝国とは、簡単に言ってしまえば女だけで構成された国なのだから。

 男も若干名見受けられたが、その全ては観光客や男娼などであり、国の運営にかかわる立場にいる者は全て女性だった。

 3時間城下町を彷徨って、男に出会うのが一度あれば運が良い方……と言えば、その異常性が分かるだろうか。

 

 まぁ、そんな国でナンパを仕掛けたあの観光客共も異常……というか馬鹿だが。


 だって身長187センチの俺よりデカいしゴツイ女がゴロゴロいる国だぜ? いや、流石にそこまでヤバいのは戦士だけだったけど。


 でもその気持ちは分からないでもない。

 女だらけのハーレム状態を味わいたくて行ったんだろうしな。

 だからこそ、ゴリラみたいな体型の女に囲まれて嫌気がさしていたおり、そこに一人だけ混じる紅一点を見逃せなかったのだろう。


 うん、分かる。

 すごーく分かる。

 俺も噂の楽園との相違にちょっと絶望してたとこあるし。

 ……でもな? 王冠見逃すなや。


 まぁ、そんなこんなでアスラエル王(少女)を助けた俺は、昼間限定だが王城に入る許可と友好の印に、と腕輪を貰ったのだ。


 あ、ちなみに西方扉とかがあるのはアスラエル帝国ではない。

 いや……ちょっとはあったけど、違う。

 アスラエル帝国は、西方大陸の最南端……砂漠地帯にあるのだが、俺の言う西方語発祥の地であり西方扉が最も多く見受けられるのは、ローランド評議国というどちらかというと北端に近い……赤土地帯にある国なのだ。


「まぁ、それからなんやかんやあってナンパされてた王女を助けてコレ貰ったんだよ。あー、でもこの世界のアスラエル王って俺のコト知らねぇよな。西方大陸に行くのは止めといた方がいいかもしれねぇな……最悪打ち首だ」

「そう、ですか……悲しいコトですね」

「……ウィル。僕らはいつだって君の味方だからネ」


 心配する声に、少しドキッとしたがそれを苦笑で隠しながら、


「へへ……おう」


 頬をかいて軽く息を吐く。そして、


「だが、俺様もいつだってお前達の味方だというコトを忘れるなよ!」


 立ち上がり強く宣言する。

 そうだ、弱い俺でも、ここまでやってこれたんだ。

 絶対に守って見せるんだ。どんなことがあっても。


「はは! うん、頼りにしてるヨ」

「はい、頼もしい限りです!」


 ホント……友達思いで良い奴らだよ、こいつらは。

 何時死んでも可笑しくはない俺には、いざという時に躊躇ってしまうかもしれない……甘さが出て殺されるかもしれない俺には、勿体無い奴らだ。






「それじゃ、おやすみ」

「はい」

「警護は僕に任せて」

「あぁ、頼む」


 現金なようだが、ホント助かってる……! 


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