第22話 崩壊と再燃(改稿済)


 貴族の男と別れた俺は、仲間たちと合流し向こうで話したコトを伝えていた。


「――ってことで、いよいよ俺がヒーローになる舞台が整ったぜ! 勿論お前らもついてきていい! ついてきて、くれるよな……?」


 さっきまでは、ようやく夢のスタート地点に立てたコトが嬉しくて気にならなかったけど……よく考えてみれば俺は彼らに一切の相談もせず決めてしまった。

 それを不安に感じ、俺の言葉は次第に勢いを失い声は小さくなっていった。


「……うん、それは良かっタ! 本当に良かったと思う。でも一つ言いたいコトがあった、それはきっと君自身が今最も後悔しているコトだろうから言及はしなイ……でも、一言ぐらい相談して欲しかったかナ?」

「はい……私も同じくです。ウィリアムさんの夢が叶うかもしれないと思うと、今からその日が待ち遠しいですし胸が高鳴ります。でも、仲間なんですから相談して欲しかったです……。そんなに頼りないですか?」


 ルードゥも、ゴブ美ちゃんも、言葉にはしないがユーリとハルも……同様の意見のようだった。

 本当に嬉しい、彼らが俺の夢が叶うコトを本気で願い……応援してくれているのだと分かったからだ。しかし同時に……


「それについては……ルードゥの言う通りだ。今になって気付いたよ、本当に済まなかった。そしてゴブ美ちゃん、俺はそんなコトは欠片も思っていないぞ! そもそもゴブ美ちゃんの回復が無ければ今頃俺は死んでいたし、ユーリとハルもそうだ。直接助けたのは俺だが、君がいなければ彼女らは助からなかった……」


 深い罪悪感も感じた。

 一時の喜びに身を任せ、彼らが俺についてくるコトを……従うコトを前提に話を進めてしまった。俺は、彼らのコトを本当に仲間だと思っていたのだろうか。

 奴隷か何かと勘違いしていたのではないか……? そう思ったからだ。


「そう思っているのならば、何故相談してくれなかったのですか……?」

「夢のスタート地点に立てたコトに舞い上がっていた……。お前達がついてきてくれるコトを、前提にしていた」

「……そうですか」


 僅かな沈黙が、堪らなく恐ろしかった。

 彼女が……ひいては仲間たちが失望し俺を見限ってしまうのではないか、と思ったからだ。

 好意を感じられない、孤独の日々はもう嫌だ……。

 必要とされるコトは嬉しい。

 だが利用されるだけというのは嫌だ。

 そこに悪意が入り込んでいるのならば、特に。

 英雄というのは、良い面ばかりを描かれるし伝えられるから大人気だ。

 だがしかし……敵国からはそれこそ悪魔か何かだと思われるだろう。

 兵士を大量に虐殺するのだから。

 それでもなお世界が争いをやめないのは、より多くの資源が必要だから。

 一度上昇した生活水準から抜け出すのは中々に辛いことだ。

 だからより幸福を、財産を求めて人は争い合う。

 

 だからこそ一人も殺さず戦争を終わらせてしまう初代剣神様は素晴らしいと思うし、俺も目標としている。


 グレートでクールなヒーロー、俺には過ぎた目標なのかもしれないな……。

 貴族の割に低ランクな奴だ、なんて考えておきながらあぁも舞い上がって……彼らのコトを奴隷のように考えてしまうなど。

 失格だ、俺にその名を語る資格はない。……そう思った。

 



 ――だからこそ、




「ふふ……ホント、私達がついていてあげないとダメなんですね。ウィリアムさんは! えぇ、任せてください。何処までだってついて行ってあげます!」




 何処か吹っ切れたように、何かを決心したように強く、美しく微笑んでそう宣言した彼女に大層驚いてしまった。


「え、えぇ!? だ、だが俺はお前達の意見を無視して話を進めてしまったんだぞ?! そ、それに実際に成り上がれるかも分からないし。だからっ!」


 なんだか、しどろもどろになってしまった。

 なんて無様なんだ……。

 ホントに、自分が嫌になる。


「ほ~らっ! 全く。いつもの自信はどうしちゃったんですか? それとも、もうヒーローになる夢は諦めるんですか? 私達はそれでも構いませんよ。ねぇ?」

「ん、そうだネ。僕らは君がヒーローだから傍にいるんじゃなイ。君といるのが楽しいかラ、君が好きだから傍にいるんダ」

「はい。私達姉妹は最初こそ命の恩人だから、という理由でしたが今は違います。ウィル様という個人に惚れこんで傍に居るのです」

「うん、ウィル様大好き!」


 あぁ……本当に、俺には過ぎた友たちだ。

 しかしハルちゃん、それはlikeであってloveではないよね……? ただ一つそれが不安なんだけど。いやまぁ、それはないか……まだ13歳だって言ってたし。

 

「……俺は」


 冷え切ってしまったヒーローになりたいという願望が、粉々に砕け散ってしまった決意が、再び熱を帯び再生していくのを感じる。


「――俺様は、ヒーローになる! お前達、今こそ問おう。俺様の友に、仲間になってくれるか? これから数々の伝説をつくりだすこのグレートでクールなヒーローである俺様の仲間にッ! 数々の苦難があるだろう、正直理論派ではなく感情派だからメリットデメリットとか関係なく困っている人を助けるだろう。たまに、先程のようにしょげたりもするかもしれない。だけどその時はまた……励まして、くれるか?」

「うん、勿論。最初からそのつもりだヨ! 尻を蹴ってでも立ち直らせてやル。メリットデメリットだっテ? 言っただろ。僕は君のストッパーだゼ?」

「私もです! それに、村を出たあの時から覚悟していたことですから」


 ルードゥは、少し強烈だな。

 でも俺にはそのぐらいが丁度いいかもしれない、有難う。

 ゴブ美ちゃんは……あの時から既に覚悟していたのか、早いな。

 爺さん、俺がヒーローを目指してるってことまで話したのか……?

 

「お前達は?」


 答えなかった彼女らに、続けて問うた。

 

「私はウィル様のもとで仕事が出来るなら、それでイイです。ヒーローだろうと、何だろうと。私はウィル様に仕えたいだけですから」

「ウィル様ならきっと大丈夫だよ!」


 ふっ、俺に仕えたいだけ……。

 俺ならきっと大丈夫、か。 


「そうだな……。あぁ、やってやるッ! 武勲をあげて、領主となって……いずれはヒーローとなる。ついてこいお前達ッ! 俺の覇道を、英雄譚を見せてやるッ!」

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