第15話 今更の発覚(改稿済)
身分証の仮登録を済ませる際にかけられた魔法だ。
どうやら犯罪歴の有無を調べる事が出来るらしい。
便利なモノだ。
国発行の正式な身分証を持っているユーリ達はやはりと言うべきかすんなりと入国を許可された為、検問所を抜けてすぐの門前で待ち合わせをし、一時解散。
そしてその後3銅貨支払い無事に入国を許可された俺達は、ユーリ達案内の
「やっぱり、見られてるネ……」
「そうだな、まぁ気にするなルードゥ。俺がテイマーとやらになればそれで済む話……なんだよな? ユーリ」
「そうですね、テイマーズギルドで会員登録してテイムモンスターだって証明すれば、好奇の眼は向けられても恐怖の眼は無くなる筈です」
「テイマーズ……ギルド? なんだそりゃ」
「テイマー、つまり魔物の調教師のギルドです。魔物に好かれやすい体質の人や魔物を恐れない人……。まぁ、要はウィル様と同じタイプの人が多いギルドですよ」
ふーん、そんな組織があるのか……ギルドってのも俺が知らないモンだな。
「へー、んじゃあそこに登録するか。魔物=必殺! の、人間至上主義? みたいな感じの組織とは反りが合わないからな」
「でしょうね。テイマーでもないのに魔物とこんなに仲が良いんですから」
「俺からすれば、襲われてもいないのに殺そうとする方が理解できないけどな。だって、動物はペットにするじゃないか。何が違うってんだ? まぁ、魔物の方が言葉を理解できるからもっと良いけどな! あーいや、別に喋れないからどうするって訳でもないけどさ」
「あはは、まぁしょうがないですよ。ウィル様と違って普通の人間は臆病ですから。自分と違うモノ、というのを恐れてしまうんです」
「ふーん、そんなモンなのか?」
「はい、そんなモンです」
やっぱ、幼い頃の経験ってのは大切なのかもしれないな。
俺も……先生に拾われていなければ、全然違う人間になってしまっていたかもしれない。
今でこそ、俺は基本的に誰とだって差別なく関われる。
でもそれは、先生に拾ってもらったから……愛されて育ったからだ。
グレートでクールなヒーローの影響もあるだろうが、大部分はそうだ。……多分。
俺は、愛の無い環境で育った子供は人に冷たくなると思ってる。
だって愛を知らないから。
冷たくされれば、そりゃあ冷たくなるだろう。
愛されたいなら愛さなければいけないんだ。
自分だけが一方的に愛される環境なんて言うのは、あり得ない。
自分のことを考えて欲しいなら、相手のことを考えてやるべきなんだ。
相手の気持ちを、幸せを。
絶対にその想いが通じるとは限らない。
それでも、愛さないよりはきっと良い筈なんだ。
だからこそ、俺は――
孤独に震える者が、この世の不平等さに、理不尽さに希望を失う者がいるならば。
人と関わるコトを恐れ、惑い、孤立してしまう者がいるならば。
それがヒーローというモノだからだッ!
「ぬあーはっはっは!」
ホントに、俺は恵まれているな。
実の親には捨てられたが……それでも今、幸せに生きる事が出来ている。
曲がることなく、真っ直ぐに育つ事が出来た。
全部、
「アンタのおかげだよ、先生」
まだ生きてるのか分かんないけど、いずれ行くよ。
そして話すんだ。
これからの夢とか、昔の思い出とか……。
「ウィル様?」
「どうしたんだイ? ウィル」
「あぁ……いや、なんでもない。昔のコトを思い出してたんだ」
今は、とにかく前へ進むんだ。
先生に会いに行く為にも、旅費は稼がないとだしなッ!
「よしッ! ユーリ、テイマーズギルドとやらに案内してくれ! 俺はそこで名をあげて、ヒーローになってみせる!」
「ふふ……はい」
てかゴブ美ちゃん。
ホントどうしたんだろう……? 未だになんか考え込んでるみたいだけど。
まぁ……ちゃんとついてきてはくれるし、別にいいか。
ユーリ達に案内され街の中を暫く歩くと、耳の長い美しい女性の顔が描かれた緑色の旗を掲げた赤煉瓦の三角屋根が見えてきた。
「アレがそうなのか?」
「はい、あの旗に描かれているのがテイマーズギルドを設立した団長様です。見ての通りエルフの方なので、設立は300年程昔ですが未だご健在です」
「300年前? じゃあこの魔導王朝って……いつからあるんだ?」
「え? あー、確か500年程昔と聞いていますけど」
……またしても矛盾点が出てきた。
「……俺の知る限りだと、こんな国無かったんだが。これでも俺、修行の為に世界中旅したから、知識量は割と豊富だぞ?」
「え? いやでも、確かな情報ですよ?」
「そうか……。んー、分からないな」
ここって、100年後じゃなかったのか?
あまりにも知らない情報が多すぎるんだが。
「まぁ今は置いておこう……。あ、そういえば仮登録があるってことは本登録がある筈だよな? 何処でやるんだ?」
「あぁ、ギルド会員証が身分証の代わりになりますよ。身分証って、産まれた時に配布されるモノですから再発行はされないんです」
「そうなのか? うーん、それも知らないな」
本当にここって同じ世界なのか?
世界のシステムが違い過ぎる気がするんだが。
いやでも……知ってる場所はあったし、同じ名前の国もあるしなぁ……。
一体どういうことなんだ?
「はぁ……訳が分からないな」
「ウィリアムさん」
「お? やっと戻って来たか、どうした? ゴブ美ちゃん」
悩んでいると、ゴブ美ちゃんが声をかけてきた。
やっと戻ってきてくれたか、良かった良かった。
でもなんだってそんな神妙な顔をしてるんだ?
「ウィリアムさん、よく聞いてください」
「あ? お、おう」
「もしかしたら……ここは、ウィリアムさんがいた世界ではないかもしれません」
一瞬、理解が追い付かない。
視界の端で、ルードゥ達が何やら言っているのが見えるが、聞こえない……気にしている余裕がない。
そしてやっと脳がソレを理解した時、自分でもビックリするほど冷たい声が出た。
「それ……どういうことだよ」
俺の中のナニカが語り掛けて来る。
――クビヲワシヅカミニシテクルシメテヤレ。
やめろ。
――ナニヲタメラッテヤガル。カワッテヤロウカ?
やめろッ!
俺は、俺は一体何を……!
首を鷲掴みにして苦しめるだと? ゴブ美ちゃんを? ふざけるなッ! 何故、何故俺は一瞬でもそんなことをッ!
――アタリマエダロ? ヨワイカラダ。
違うッ!
――ヨワイカラミトメラレナインダヨナァ? ザコ。
違うッ! 俺は、俺は弱くなんかないッ!
……俺は、強いんだ。
強い、ヒーローなんだ……。
「ッ! ウィリアムさんは……言いましたよね? 魔法も魔物も、クラスも知らないと」
「あ、あぁ」
ゴブ美ちゃんのその問いかけに、どもりつつも答えた。
「もしかしたらそういう場所があったのかもしれない。いや、ウィリアムさんの地方では言い方が違うのかもしれない……そう思って断定はしませんでした。しかし、これは決定的すぎる。人間であれば、絶対に誕生と共に神から配布される身分証を知らない筈がありません」
「……親に捨てられた孤児院育ちの子供でもか?」
「ッ!? いや、その件は後程詳しく聞くとして、そうです。例えどんな環境で育ったとしても、身分証は……原典は必ずあります。ユーリさん……見せてもらってもいいですか?」
「……はい。いずれお屋敷を建てた際に仕えると約束しましたし、見せるのが早まっただけですから」
ゴブ美ちゃんに指示されたユーリが、何事かを唱えると……ブォン、という音と共に分厚い本がユーリの手に現れた。
「それは、一体……?」
唖然とした。
魔物が不思議パワーを使うのは、知らない存在だから受け入れられたが……人間が不思議パワーを使っているのを見ると、つい驚いてしまった。
いや、もう既に検問所で魔法は体験済みなんだが……。
アレは別に何かがいきなり現れるとかじゃないからなぁ。
「これが、身分証の原典です……。その人間の全てが書かれていると言っても過言ではありません。入国時に提出要求されるのは、これの簡易版です。原典には今まで生きてきた履歴……人生が詳細に記されていますから。流石にそれを見せろと言うのは横暴が過ぎる、と大反乱にあったのです。それからなんやかんやあって、薄い板状の簡易身分証が誕生したんです」
人生の……詳細。
原理とかは、良く分からなかったけれど……。
とにかく、俺が人間としては異質だということは分かった。
「それで? これが無い俺はなんだってんだ?」
「はい。もしかしたらウィリアムさんは……同じ世界を舞台とした、別の時間軸。平行世界からセラフによって召喚されたのかもしれません」
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