第14話 魔導王朝(改稿済)
女子組の水浴びが終わり、俺達は移動を再開していた。
あと1、2時間で着くとはいえその間ずっと無言というのも辛い。
それに幾つか質問したいコトもあったのだ、ちょうどいいだろう。
「ユーリ、ハル。それでどうだ? 決まったか?」
「あ、はい。もし本当に拠点を建てるのでしたら是非」
「そうか……嬉しいぞ、ユーリ! 俺様は偉大な英雄になる。そんな俺様が、でっかい拠点の一つや二つ、持っていない筈が無いのだッ!」
数瞬間をおいて、
「……まぁ予定だけどねッ!」
まだ持てていない言い訳をするように俺は付け足した。
「あはは、はい。それで、ハルについてなんですが……拠点で働くようになってからは、しっかりと言葉遣いも直させますので、それまでは勘弁してもらえませんか?」
頭を下げて頼み込んできた。
んー、俺をどっかの器の小さな貴族かなんかと勘違いしてないか? 言葉遣い程度で一々ガミガミ言う程心は狭くないんだが……いやまぁ、メイドやってって頼んだの俺だし、そこらの線引きはキッチリしたいのだろう。
仕事とプライベートにメリハリをつけるのは良いと思うし、まぁいいか。
「あぁ、勿論だ! まだお前達は友達とその妹だからな。その代わり、仕事の際はしっかりと頼むぞ? 従者は主に似るという。俺様が偉大なるヒーローとなるのだから、メイドであるお前達が器の小さい奴では困るのだ」
「はい、そうなった時は必ず」
「ぬあーはっはっは! 頼もしい限りだ、安心して家のコトを任せられそうだな。俺様の目的は基本的に一つ! 偉大な英雄となり人気者になるコト! 後、そのついででセラフに会って真実を確かめるのだ。だからもしまた困っている人を見かけたら助けに行く」
「そうですか、ふふ……ウィリアムさんならきっと成れます。私達をあんなにボロボロになってまで助けてくれた人ですもの。少なくとも私達にとってはもう……貴方は英雄です」
そう言って笑う彼女は美しくて、少し見惚れてしまった。
「……ウィリアムさん?」
尻をルードゥの背につけたまま身体を横に傾け、下から覗き込むように俺の顔を見るユーリに、
「ッ! ウィルでいい、親しい者は……皆そう呼ぶ」
誤魔化すように目を逸らしながらそう言った。
彼女の笑顔に見惚れていたのがバレると思ったからだ。
「しかし私は……」
数瞬逡巡した後、
「いえ、ではウィル様とお呼びします」
異論は認めんとでも言わんかの如くキッパリと断言した。
それにしても、ウィル様……? いやまぁ、別にいいか。
何故だかユーリからの呼び名は、その方がしっくり来る。
ゴブ美ちゃんもなんだが、何故か彼女からはウィリアムさんと呼ばれていたい……。
なんだかそう呼ばれると、嬉しいしドキッとするのだ。
基本的に友達からはウィルって呼ばれたい。
でも彼女からはウィリアムさんと呼ばれたい……。
他人行儀って訳ではないのに何故だろう? ホントに、人によって呼んで欲しい名が変わると言うのは厄介だ。
ウィルって呼ばれるとなんだか嫌な人もいるし……でもこういう悩みだって、一人だったら決して起りえないモノだ。
そう考えると、今皆と一緒にいられるこの時間が凄く幸せで貴重なんだなと感じた。
暗闇でどれぐらいの時間かは分からないが一人きりの時間を過ごしたからかな……。
なんだか凄く、感傷的な気分になりやすくなった。
「分かった。あ、そういえばユーリ」
「はい、なんですか? ウィル様」
「成人の儀ってのは何なんだ?」
そう、ずっと気になっていた。
ゴブ美ちゃんは未だに難しい顔してトリップ中だし、仕事の返事の方を先に聞きたかったから後回しにしたが……気がかりではあったのだ。
「そうですね……15歳になったら教会で行う儀式、ですかね」
「ふむ、それで?」
「神託を授かる神官様からクラスを告げられ、その仕事に就職します。クラスが戦闘職だった場合は、冒険者などに就職する人もいます」
「へぇ~、成程……じゃあユーリは冒険者なのか?」
「あ、はい……一応は。ほとんど名ばかりですけどね? 職を失わないように定期的に簡単なクエストを熟すだけで基本的にはただの村娘です」
んー、あ! 俺の予想が正しければ、もしかしたらゴブ美ちゃんたちを街の中へ連れて行く事が出来るかも。
「なぁユーリ、魔物と仲良くなるコトのできるクラスってのはあるのか?」
「テイマーさん! 私達の村にもいたんだよ。ね? お姉ちゃん!」
俺の膝の上でちょこんと座ったまま黙っていたハルちゃんが、突如話に入ってきた。
一人
「えぇ、あ……成程。行けますよ多分」
「察したか、そりゃ良かった。良かったなルードゥ! 街へ入れるぞ」
「はは、そうだネ……でもユーリさん。確か、入国の時って身分証を求められるんだよね? 人間って。ウィルは身分証なんて持ってないケド……」
「大丈夫です、3銅貨で仮登録できますから。紛失してしまう方も結構いるんですよ」
「そうなんだ、なら本当に良かっタ!」
あれ、今ふと思い出したが……3か月はかかる予定じゃなかったか? 目覚めた時には既に水晶湖にいたから後1、2時間とか言ったが、可笑しくね?
「な、なぁルードゥ」
恐る恐るルードゥに問いかける。
「ん、なに? ウィル」
「ユーリ達を助けに行った時、まだ……旅立ってから3日だったよな?」
薄々気づいている。
「そうだネ、それがどうかしたノ?」
「俺って一体、どんだけ気絶してたんだ? まさか……3か月も」
どんだけ重傷だったんだよ俺……2日3日の気絶ならまだ話は分かるが、3か月って! いや確かに身体中ボロボロになったけど3か月はなくない?
「ん? いや、3か月は流石に寝てないよ」
「そ、そっか……良かった」
胸を撫でおろし、ホッと息をつく。
しかしまだ全ての疑問が解消したわけではない。
続けて問いかける。
「じゃあ、一体どれぐらい寝てたんだ?」
「1か月」
「……なんて?」
ホントは分かっている。
でも、理解したくなかったのだ。
「1か月」
1か月。
3か月に比べれば、断然短い。
しかし、それでも長い。長すぎる。
1か月もの間寝たきりだった……ということは、その間俺の世話は全て皆がやってくれたということ。
食事も、排せつ関連も。
恥ずかしい云々の話ではとても収まらない。
俺は一体、どれだけの迷惑を皆にかけてしまったと言うんだ……。
あり得ない、最悪だ……。
「ねぇウィル」
「ッ! な、なんだ?」
底なし沼にハマるように何処までも黒く沈んでいこうとした意識が、ルードゥの声によって急浮上し、再び正常に動き出した。
「計算が合わない……とか考えてるでしょ」
計算が合わない? いや、そんなことは考えていないが……。
いや、でも言われてみれば確かに計算が合わないな。
「え、うん」
ここで真実を伝えては、折角作った皮が破れてしまう。
そう思い、俺は話を合わせることにした。
「はぁ……僕らのヒーローは強いし良い奴だけど、おつむは弱いね。
言われてねぇよ知らねぇよ。
いや、確かに脚クソぶっといけどさ?
おつむ弱いねとか言われて少しムッと来た俺は、皮を守りながらも文句を言う為心の中で叫ぶことにした。
偉そうにこの野郎! テメェ俺と会ってなきゃあのまま殺しまくってたんだぞオラァ!!
ふぅ……うん、声に出してないから全くスッキリしないね、あはッ!
クソが。
「……あ、そうすね。なんかすんません」
このイライラ、どうやって晴らすべきか……。
ちくしょー、こんなことならキャラ作らなければ良かったぜ。
まぁ、良いけどさ。実際気付いてなかったし。
「全く……それに、人工魔石食べて進化したから、もっと速くなったんダ。負担かけないように走ったし、話すのに夢中だったから気付いてないんだと思うけど、馬5頭分の力は出せるんだゼ? 今の僕」
んー、なんか変わったよな。
ルードゥって、こんなんじゃなかった気がするんだけど。
「なぁルードゥ、それは純粋に凄いと思う。だが一つ聞かせてくれ」
「なに?」
「お前って、こんな自信家だったっけ?」
俺の中でルードゥは引っ込み思案だけど責任感の強い良い奴って認識だったんだが……。
なんか結構ズバズバ言うようになった。
より俺のことを友達だと思ってくれて遠慮が無くなっただけかもしれないが……。
ふっ……ホントにそうなんだとしたら、俺は一体何なんだろうな。
自分から友達になってくれとか言っといて……。
本当に、こんな弱い自分が嫌いだ。
だからこそ、皆のコトを大切にしたい。
俺なんかを慕ってくれる、貴重な人達だから。
そして彼らと一緒にいる時間は、楽しい気持ちで、温かい気持ちでいられるから。
「あぁ……君が無鉄砲で自分を
力がついて自信がついた、か……。
なるほどな。
今までは自分に自信がなかったのか。
まぁ、ここは素直に謝るべきところだな。
「申し訳ありません!」
「うん、宜しい! なんてネ」
その後もあれこれ雑談を交わしつつ暫く移動を続け……ふと、視界に小さく城が映る。
もしやあれが……
「魔導王朝」
とうとう着いたのか。
「まぁ俺、3日ちょっとしか旅した記憶ないんだけどね」
「あのサ、一々言わないでくれル? 締まらないカラ」
拝啓……過去の俺へ。
将来、ルードゥが毒舌キャラになるから気を付けて。
まぁ、ユーリとハルちゃんを助けたことに後悔はないから無茶するなとは言わないけどね。
水晶湖から歩いて2時間で着く平原。
魔法と科学が混ぜ合わされ造られた、美しく整備された発展都市。
俺がヒーローになる為の、舞台となる国。
魔導王朝シュメールに到着したのだ!
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