第4話 個性的な飛行機野郎たちの登場、の巻

 もう音量が大きすぎて地面が揺れてる! とか、どこからこんな大量の楽器を集めてきたんだと思うくらいには会場には様々な楽器や、それを演奏する人、バンドの数も揃っていた。

 背の低いジャンゴ族や、もっと小さいピグミー族、人類以外の大会参加者も大量にひしめき合っていて一部にいるのは、どう見ても原始人とかどこかの石器時代から蘇ってきたんじゃないかというような人たちも集まっていた。

 彼らはなぜか棍棒を持ってうほうほ言いながら火を囲って踊っており。むしろ今は昼時なのか何かの骨付き肉を食べている。その原始人たちが乗っているらしいのは、やっぱり丸太と石器で出来ているみたいな巨大な航空機だった。

 あれでどうやって空を飛ぶのだろう。

 竜がいた。本物だ! ……あれは航空機なのか!?

 何かの図面を読んで風を計っているらしい、背の高い英国紳士のような兄弟二人組がいる。

 二人組の男の傍らには、どうもキツネの皮で作った羽と木の棒で組み立てられたらしい大型の人力グライダーが。なるほど滑空距離で勝負して得点を得るつもりなんだな。

 男達は顔と髭と勝ち気な笑みで、自信のオーラを漂わせて始終「我に勝算あり!」という雰囲気を周りに見せつけていた。

 そのとなりのブースには、これから世界初の大西洋単独横断に挑むリンドバーグが。今まさにドイツ・ベルリンから到着したらしいコートと上着姿で記者たちのインタビューに応えていた。

 木とネジと紙だけで骨組みを組んで回転式の一枚の紙で翼を作った、一見するとユニークな無人機が地面に置いてある。

 横には画材と石像と分度器と縄と、様々な巻物を抱えて考えている長い白髭の老人がいた。どうやら老人は、小さな無人ヘリコプターの翼の調整で四苦八苦しているらしい。

 その隣にはペガサスと太古の戦士。ペンギン。イカロス、藁とたき火と気球風船のモンゴルフィエ兄弟、うちわを二枚持った人、魔女、スー、デルパの小型ジェット機と順に並んでいる。

 その中で一番人が多く集まっているのが、この大会で一位を取るだろうと予想されているスーだった。

 ジャンが通り過ぎ様にちらりとスーのブースを覗いて見ると、先ほど自分たちに絡んできたスーはまさに新聞記者たちのインタビューに応えているところだった。

「うー悔しいな」

 自分のブースには誰一人記者が来ない。それどころか、駐車場スペースに置いてある自分のグライダーの前では暇を持てあました子供らが遊んでいた。

 悔しいのでジャンは通り越し様に、素知らぬふりをしてスーの受けているインタビューを澄まして聞いてみる。すると、やっぱりというか今大会での優勝の秘策とか他のライバル選手達に対する思いとかそう言うのを記者達にスーは聞かれていた。

「まー今年も優勝かな。優勝だけを目指して、でも何事も肩の力を抜いていかないとねー」

「昨年は隣のヨー地区での優勝をさらいましたが、今大会は嵐でヨー地区の大会が開かれず、結果としてこのフラップ村の地区大会に来ました。スー選手はこのラダー渓谷での初フライトに自信はありますか?」

「自信なんかないよーただ、初めてじゃあ無いんだ。ここはいい渓谷だからね、たまにだけど次の方面大会の前の練習に、ここに来てた事はあるよ」

「では、初めてではないと。では慣れたコースと言う事ですね。いつも一緒に飛ぶ仲間はいるのですか?」

「んー初めてではないけれど、いつも空を飛んでる時は一人だからねー、こんなに一緒になってみなで飛ぶのは、オレっちさんも初めてだから」

「緊張しますか?」

「キンチョーはするさー」

 さもおどけた様子で体をがたがた震わせるスーの姿に、横からそっと見ていたジャンはぷくうと頬を膨らませる。

「スー選手にはお仲間はいないと?」

「いないよっ、昔の仲間はみんな炭坑で働いてるんだ。だからオレみたいにこうやって空を飛んでる奴に古い仲間はすくない、だから大会に出てる人はみんなライバルだけど、みんな友達なんだ」

「みんなライバルで、みんな友達と?」

「一期一会の、さ。ああ今日もいい友達と会ったんだよ、彼の名前は何だったかなー」

 ここまでスーが言ってきょろきょろ周りを見だしたので、なんだか嫌な予感がしてジャンはすっと記者達の群れから離れて一人になる。

 最初は気づかなかったが、スーが大会に持ってきた機体はジャンと同じグライダーだった。

 それも重量もジャンより軽い、エンジンなしの滑空型。色は灰色でそのくせ翼が大きく、シンプルな形に特化したらしい高揚力発生装置、それから極端に簡易化されたソリ、コクピットも最低限の物しか着いておらず見ただけでもすぐ分かる。

 この機体は、かなり遅い。遅いのによく飛べるよう設計されている低空低速用の滑空機だ。

 ジャンのグライダー「シルフィード」はスピードはそこそこ出るものの、安定性や低速での操縦性は言うほど良くはない。

もしも嵐や意図しない横風に吹かれたらジャンのシルフィードは、それこそ木の葉のようにどこかへ飛んで行って落ちてしまうだろう。けど、スーの機体は違う!

「みっけた!」

「ぎゃあー!?」

 考え込んでいると突然後ろから抱きつかれ、記者たちのフラッシュを浴びてジャンはハッとした。

「す、スー!?」

「この子がオレっちの親友で、ライバル」

 パシャパシャとカメラのフラッシュが焚かれて、ジャンは緊張気味にはにかんでそれからスーを振り返る。

「なんだって?」

「キミほんとーにニューカマーなのー?」

 なんだか疑い深そうにスーがジャンの体に寄りかかって覗き込み、その様子をさらにカメラマンが写真に撮っていく。

「スー選手! なぜ今日は彼がスー選手のライバルなんですか?」

「んー彼の機体ねー、すごくいい翼を持ってるんだよ。それにあのボディ、並の素人じゃとても作れない繊細さがあった。匠の技だね。ちょっと型が古いけど」

「貴方のお名前は?」

 ネームプレートと報道の腕章を着けた記者が、マイクをジャンに差し向けてくる。

 ジャンはやや緊張した顔をすると、口を尖らせてマイクの質問に答えた。

「じゃ、ジャン・マルクです」

「……マルク?」

 最後の一枚をカメラマンがパシャリととり、記者たちが一斉に顔を見合わせる。

 隣のスーも驚いた顔をしていた。

「マルク? マルクって、あの空中分解起こしたピヨール・マルクの?」

「その息子です」

 一瞬報道陣に間が開いて、それからおおー! と記者たちが声を上げてカメラマンもフラッシュをたき始めた。

「あの謎の空中分解を起こしたピヨール・マルクの息子、ジャン・マルクが父の名を背負って奇跡の復活を果たす!」

 記者の誰かがそう叫ぶと、フラッシュの光りの数がぐっと増えてジャンは記者達に一斉にマイクを差し向けられる。

「マルクさん今大会に向けての抱負をお聞かせください!」

「やはり父の謎の空中分解事故、息子さんのあなたはすでに解決済みなんですか!」

「お父様ピヨール・マルク氏のレコードは未だ誰にも破られていません! そのことについて一言!」

「でなければジャン君は空なんて飛ぼうとしないさ!」

 ジャンはいきなり増えたフラッシュとマイクの数に戸惑ってあんぐり黙っていると、そのうちスーが間に割って入ってくれてジャンの代わりに記者の質問に無理矢理答えてくれる。

「さあさ、これからウォーミングアップだからインタビューは後にしてくれ」

 そういうとスーがジャンの肩を押して機体の後ろに持っていくよう力を入れたので、ジャンもされるままにスーに着いていった。

 でもすぐすると、スーは振り向いてジャンの手を両手で握ってきた。

「そうかーキミがあのマルクさんの息子さんなのかー!」

「えええー!?」

「いやースーさんカンゲキっ! ちょっと、ウォーミングアップがてら一緒に歩こうよ」

 スーが後ろを振り向いて、記者が後を追ってこない事を確認する。

スーの手がジャンの背中をそっと押して、近くの駐機場まで歩いていこうとジャンを誘った。

「キミはマルクさんの息子さんなんだね。どうりで、翼が古いと思ったんだ」

「それどういう意味なんですか」

「んーああ悪気があって言ったんじゃないよ? だって、マルクさんが死んだのってもうずっと前だったよね?」

「父が死んだのは十二年前です」

「うんそれくらいだねー。いやー……もうそんななるんだねー」

 ジャンとスーが一緒になって歩いていると、大会にやってきている多くの観客や他のパイロットたちが振り返る。

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