2019年6月4日『パロディ・パラレル』④

 学校までの坂道を急ぎ足でのぼっていると見慣れた二人組を見かけたのでおはようと思わす声をかけてしまった。声を発してからあっと気付いたがもう遅い。ギョッとしたように振り返ったのは谷口の方が先だった。


「なんだ涼宮か。どうせまた厄介ごとか何かか?頼むからキョンを通して言ってくれ。まだ悪態をつける相手だ」

「おはよ、涼宮さん。今日はいつもより遅いみたいだね」


 谷口と国木田の二人はそれぞれの反応で俺に返事をした。やはり俺はハルヒのスポークスマン扱いされていた…というか、体のいい中間管理職のような扱いだ。というかなぜこいつらに話しかけてしまったんだ。話がややこしくなるから適当に返事をして小走りに追い越すことにした。


 教室につくと、おはようと阪中が声をかけてきた。女子に、登校しておはようと笑顔で声をかけられる機会がないのでどう返したものかとっさに困ったが、お、おはようとぎこちなく笑顔で返す。恥ずかしいような気持ちを抱えて自分の席…もとい、一番後ろのハルヒの席についた。


 始業開始のチャイムが鳴っても、ハルヒは登校してこなかった。おいおい、まさかハルヒの奴、自分だけバックレる気じゃないだろうな。と心配になったが、ハルヒは1時間目の終了後の休み時間にのっそりと教室に入ってきた。寝癖などは直っているが、服装がヨレヨレでネクタイに至っては手に持っている始末だ。


「自分は散々時間かけたくせに」


 俺は自分の席にドスンと座ったハルヒの手からネクタイをひったくると、ワイシャツのボタンを留め直した。ハルヒは暑いと嫌がったが、それを無視して襟元を立たせ、ネクタイを首に巻いて長さを調整する。くそ、反対向きだからうまくいかない。何度かやっていると教室が急に静かになったので振り返ると、クラスメイト全員がこちらを見ていた。


「ちょ~っと失礼」


 目の前にいたハルヒが俺の胸元をつかもうとして掴みそこね(ネクタイがないので当然ともいえる)、セーラー服の後ろをひっ捕まえるとずんずんと教室を飛び出した。


「バカバカバカこのバカキョン!あんたあたしの姿でなんてことしてくれるのよ!」


 何と言えばネクタイを結ぼうとして…そう、ハルヒの姿の俺が、俺の姿のハルヒにネクタイを結ぼうとする様を、クラスメイトの衆目の前でやってしまった。


「なんであたしがキョンを甲斐甲斐しく世話しているのよ!」


 そうは言うけどハルヒ、お前のその喋りだって俺からすると誰かに聞かれるとちょっとした問題なんだからな?幸い2時間目の授業開始のチャイムが鳴った後なので、あたりに人はいないのだが。というかハルヒ、お前は人にどう見られているとか気にしない奴だったろ?


「あたしがどう見られようと構わしないけど、あんたとセットで見られているのが大問題なのよ」


 意味が解らん。それで損をするのは俺ばかりじゃないか。ハルヒは分かんない奴ねと言い、次変なことやらかしたらこの姿で女子更衣室に突撃するからねと恐ろしいことを言いながら教室に戻った。授業中に教室に戻ったため多少先生に窘められたが、クラスメイトの大半が生暖かい目で眺めてきた方がダメージが大きかった。

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