2019年6月4日『パロディ・パラレル』③

 男女、女子の部屋、明け方。何も起きないはずがなく…俺はハルヒに目隠しをされて悲鳴を上げていた。と言葉だけで言うととんでもない誤解を受けるので時間を少し前に戻そう。俺の体のハルヒが、窓からハルヒの部屋に侵入してきたあたりからだ。


・・・

・・


「お前!俺の恰好で変なことするんじゃない!ご近所に見られたらどう言い訳する気だ!」


 戻った後に白い目で見られるのは俺なんだぞ。ハルヒ(俺の体)はじぃっと俺(ハルヒ)の体を仏頂面で眺めていた。何だよ。


「夢かなと思ったけど、そうじゃないみたいね…。タピオカミルクティーだと思って飲んだらカエルの卵の観察するためによけていた池の水だったみたいな気分だわ」


 オネエ言葉で喋る自分の姿を目の当たりにしている俺も似たような感想を抱いていることを忘れるんじゃねえぞ。


「うるさい。今考えているから黙ってて」


 そういうとハルヒは顎に手を当ててなにやらよくないことを考え始めた。いや、本当にろくでもないことを考えているときの顔だ、あれは。


「決めたわ。今日はこのまま過ごしましょう」


 このままも何も、入れ替わりが解消するまではこのままにならざるを得ない。平日なので学校もあるが、どうにかなるまで休むしかないな。


「何言ってんのよ。団活までちゃんとやるに決まってるじゃない」


 共通認識に齟齬があった。ハルヒの言う『このまま過ごす』というのは、大人しく過ごすという意味ではなく、いつも通りの生活を入れ替わったままやろうという意味らしい。俺に一日ハルヒでいろって?断る。というかハルヒが俺になることに恐怖しかない。


「そういうことだから、観念しなさい」


 ハルヒが重々しくそういって、俺は何かで視界を奪われた。以上、回想終わり。おわかりいただけただろうか。俺にはさっぱり分からなかった。


「やめろ馬鹿!おいハルヒ!ストップ、ストップ!」


「暴れるな!服が脱がせにくいでしょうが!」


 おい待て、なんだこれは。はたから見れば、俺がハルヒを目隠しして服を剥いでいる?万が一ハルヒの家族にでも見られたら俺は塀の中にぶち込まれるじゃねえか。というか本当に何考えているんだこいつは。


「今すぐやめないと、ご近所に聞かれるまで叫ぶぞ!!!」


「やめなさいよ、制服に着替えさせるだけじゃない!」


 …なに?


「だから、学校にパジャマで行くわけにはいかないでしょ?だからあんたを北高の制服に着替えさせるの。それともあんたは女子生徒の制服に着慣れているわけ?」


 俺は盛大にため息をついた。あのなぁ…、そういうことは説明してからやってくれ。貞操の危機を感じたぞ、という言葉は飲み込んでおいた。ということで、俺は目隠しされたままハルヒが着せ替え人形よろしく俺を着替えさせるのに任せておいた。ちょっと待てよ、それ目隠し必要だったか?こいつ男子の前でもかわまずに着替えるような女だったはずだが。


「もうこんな時間なの?急がなきゃ」


 そう言ってハルヒは俺の手を引いて洗面台まで連れてきた。顔を洗って終わり、かと思いきや化粧水か何かをパパっとかけられたり、眉毛の辺りを何かで触られたり、髪の毛をやけに丁寧にブラッシングした。ハルヒ曰く寝癖が付いていたらしい。女子の朝は大変だな。最後にカチューシャを頭につけると、いつものハルヒが鏡の前にいた。


「これでよし。時間ないから朝ご飯はないけど、お昼まで我慢なさい」


 朝飯抜きはキツいな。道中コンビニでパンでも買っていきたいが、勝手にハルヒの財布から使うとあとが怖そうだ。大人しく従うとしよう。ハルヒはまだやることがあるらしく先に行けということで、俺は駅前の駐輪場の番号を教えてそこに止めるように伝えた。


「あと、あたしの財布の中にこの家の鍵があるから。それ、よこしなさい」


 先にハルヒの出ていくのが俺なので、まあそりゃそうだとハルヒに渡した。


 もうちょっと考えておけばよかったと後悔したのは、もう少し後の話である。

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