第9話
「こんな風にあなたの姿になってみると、とっても落ち着いた気分になるんです」
気のせいだそうに違いないだから早く私以外の適当な姿になってくれ。
「ということでしばらくこの姿でいようと思いまして。でもそうすると、ほら、【私】が二人いると、辻褄合わせとか説明とかが面倒になるじゃないですか」
「あなたが別の姿になればいい話だよ!」
「だから【私】が私になっている間、あなたには黙っていてもらおうと思いまして」
もう私の思考回路はとうの昔に機能停止していた。気付いた時には私は【私】に組み伏せられていた。
「こうして私のもとに訪れたのですよ。あ、口調も変えないといけませんね」
もう終わった。すべてが間違いだった。どこかで【それ】について誰かに話していたり、気味の悪さに気付いて関わりを断つべきだった。私は考えうる限り私にとって最悪の選択をしてしまったようだ。「しばらく私になる」とか「黙っていてもらう」とか言っていたが何をどうするのだろう。いや考えるのはよそう。とりあえずいえることはグッバイフォーエバーマイ人生ということだけだ。
同じ私の体のはずなのに、密着した【私】の身体を押しのけることはできなかった。どういう理屈だ。
――――あれ?
……これは【私】の身体、だよな。
かすかな違和感。それを頼りに手足をよじって【私】のある部分に触れてみる。
――――あっ。
「ちがあぁぁぁぁぁうぅぅぅぅぅ!!」
突如として叫んだ私に【私】は驚いたのだろう。絞め技の力加減が緩んだ隙に私はバッタのごとく飛びのいて【私】と距離を取る。といっても室内だからせいぜい部屋の対角線に位置するところに背中を預けるような形で【私】をにらんだ。
対して目を白黒させてこちらを見つける【私】は、この人間は狂ってしまったのだろうか、と言いたそうだった。いや言っていたのかもしれないが、それよりも私は高らかにこう宣言せずにはいられなかった。
「私は男だ!!」
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