第4話
実行はさほど難しいものではなかった。
確かに犬や白鳥やカニに話しかけたとしたら、夜といえどもその姿は人の目につき、動物とともに動画としてネットの海を瞬く間に駆け巡るだろう。人の噂も75日と言うが、2か月半の間後ろ指を指されながらの生活は御免である。
しかし【それ】は時折ではあるが人間の姿で噴水に君臨するのだ。まさにそこに光明がある。人間の姿ならばいくらでもコミュニケーションを図っても不自然さはない。だから傍から見ても晒し物にされる要素など一かけらもない。これこそベストタクティクス。あとは勢いで何とかなる。たぶん。
そして人事を尽くさずに天命のみを待ち数日が過ぎた。
大学からの帰りの午後8時ごろ、噴水前の広場の少し手前の街路樹の後ろから姿を確認する。
そこにいたのはサル顔の外国人の紳士。
……いけるのだろうか?直前まで確かにあった好奇心が空気を抜いたビーチボールのようにぺちゃんこになる。勢いで行けるかもしれないと思ったが、ただこちらから見ていただけの見知らぬ人物であり、あちらからしても、ただ待ち合わせでいただけなのに他人に話しかけられた、ということになるかもしれない。そもそも第一声はどうやって話しかける?自慢ではないが英語の成績は上の下だ。いやそもそも英語圏の人物なのだろうか。他の海外言語はナマステくらいしか知らないのだが。
よく考えもせずに発進し、土壇場で正気に戻って二の足を踏んでしまう自らの悪い癖を悔いていると、
「何か用でしょうか」
どこか耳に心地よいバリトンボイスが響いた。
先手を取られたのである。
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