第3話

 その次の夜は同じ場所に、美術室に置いてあるような古代ローマ人だか何だかの石膏像が飾ってあった。一見すればどこぞの大学生の悪戯のように思える光景である。

 また明くる夜には、歴史の教科書で見たような修道士が何をするともなく座っていた。夜でも蒸し暑い日本の夏だというのに、その額に汗の一滴もないことに感心したのを覚えている。服の中にクーラーを仕込んだ服を思い出した。

 昼になると忽然と姿を消し、夜になれば決まった場所に現れては異なった姿を見せる【それ】は、どうやら近隣住民の中では私にしか見えないようである。誰かを引っ張ってきて「これが見えるか」と確認したわけではないが、ここ数日で噴水のへりに座っている【それ】を観察していたのは私だけであったため間違いないだろう。

 もしかしたら【それ】はどこぞの美大生が試みた新手の現代アートなのかもしれない。それかただ単に天文学的な確率で偶然がここ数日に重なっていただけなのか。それはともかくとして、「今日はスベスベマンジュウガニだから水曜日か」というような法則性も見いだせないまま数週間が過ぎた。こういったとりとめのない流行は私の中ではもって平日の5日間くらいであり、また新しい何かが自分の中で話題になったりするのだが、なんせ毎日その姿をまさに変幻自在に変えるのである。【それ】への新鮮味が段々と薄れていくのと同時に、胸の奥からとある好奇心が活火山のマグマのように湧き出ていかんともしがたくなってきたのだ。

 ――――話しかけたい。

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