第2話

 翌日も地球全体がサウナの一室であるかのような暑い日だった。テレビのお天気キャスターに「熱中症に気を付けてください」と見送りの言葉を受け、駅への道を急ぐ。

 ふと、またあの犬はいるのだろうかと思い出して噴水の前で立ち止まる。今日もまた釈迦三尊像のように何かを見つめているような様子でいるのだろうか。

 犬はいなかった。そりゃそうか。

 しかしその日の深夜。気だるい大学の講義が終わって一通り遊び、さあ帰って風呂に入って寝るか、とぼんやりしながら駅を出て噴水前の広場を横目で見ながら通り過ぎた、のだが。

 結論として、件の犬は夜になっても戻ってくることはなかった。

 そして、白鳥がいた。

 例の犬が鎮座していたところに、そっくりそのまま今度は真っ白な白鳥が座っているのだ。

 もしかしたらと思いよく見たが、首輪のようなものは付いていない。場違いすぎて誰か飼い主がいる白鳥かと思ったが、どうやら野生なのかもしれない。しかし驚き見つめる私の視線に警戒することもなく、昨日の犬と同じようにどこかを見つめては視線を他に向けてをくり返していた。

 このような光景は大変珍しいはずなのに、私の周りを通り過ぎる人々はスマートフォンのカメラを向けるどころか、私のように立ち止まる者も一人もいない。奈良のシカみたいに、そこにいるのが当たり前の観光資源なら周りが無視する理由もわかる。しかし今日初めて舞い降りたこの珍客に好奇の視線が集まらないのはよく考えなくても不自然だと思うだろう。

 何かがおかしい。

 先日下したばかりのワンピースの首元にいやな汗がにじむ。どこかで虫が鳴いていた。

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