If : 友情エンドの後で

「……これで、君は自由だ。長い間、重責を押し付けていたようで済まなかったな」


「いえ、謝るのは私の方ですわ。このようなわがままを聞き入れてくださった殿下に感謝こそすれ、恨み言など言おうはずもございません」


「そう言ってもらえると助かる。君の婚約については、父上や公爵とも相談の上、王家からも最大限支援しよう」


「ありがとうございます」


 そう言って二人、二人は、憑き物が落ちたような晴れやかな顔で微笑みあった。これが関係の終わりというわけじゃない。二人のこれからはきっと、互いにとって正しく無理のない、心地よい距離で続いていくだろう。


 こちらを振り返ったクレアのすっきりとした微笑みを見て、私もつい口元が緩む。最後の手続きを見守っていた私達のもとへ、クレアはいつものように悠然と、けれどその表情に堪えきれぬ喜びを滲ませて歩み寄ってきた。


「エルザ」


「おつかれさま、クレア」


 私の労いの言葉にクレアはわざとらしくツンとそっぽを向いてみせる。


「ええ、本当に疲れましたわ。はじめは訳のわからない貴女の前世だとかゲームだとか、そんな話を聞かされて心底困惑しましたし、その上あろうことか殿下と婚約破棄しろなどと。友人でなければ二度と顔を見せるなと叩き出しているところでした」


「ご、ごめんね? あの時は私もちょっと混乱してたっていうか……でも、本当にそれが一番、クレアの為になると思ったから」


「フン、別に責めてはいませんわ。私、これでも友人には寛容ですのよ? それに――」


 ちら、と私達から少し離れた場所で同じように談笑する殿下とドールスを一瞥して、クレアはふっと気の抜けた息を吐いた。


「確かに、私には似合わぬ肩書でした。これまでの人生、たった一つの未来のために費やしてきた時間は何だったのかと虚しくもなりますが……それでも、ええ。それでも、やはりこれでよかったのだと思うのです」


「その虚しさはきっと、これからの時間が埋めてくれるわ。私も、クレアのそばで手伝うから」


「当たり前ですわ。これだけの無理を通したのですもの、貴女には責任をとって頂きませんと」


「せ、責任って」


 そんなこと言われても、とまごつく私にクレアはニヤリと悪役っぽく笑むと、私の右手をそっと取って両手で包み込む。そして。


「エルザベラ・フォルクハイル。どうかこれからもずっと、私の親友でいてくださいな」


 そう言って、美しい花は微笑んだ。


* * *


 これは紆余曲折なんてなく、全てが丸く収まった、物語になんてなりようもない世界。


 断罪される悪役令嬢の姿は既になく、今生ではライバル令嬢エルザベラ・フォルクハイルとなった私は大好きな乙女ゲームの悪役令嬢と無事親友になった。


 恋愛ゲームのエンディングで友情ルートなんて言うとバッドエンドみたいだけど。大好きな彼女を救うことが出来た私はいま、この世界に転生したことにこの上なく満足しているし、十分幸せだ。


 私の転生物語は終わり。これからは、転生者としてではなく、ゲームの世界ではなく、エルザベラとして、この世界の一員として生きていく。

 そんな新しい門出に、ふと私の脳裏によぎった人物は――。


▶いつでも一緒にいるアニーよね


 何かと噛み付いてくるミリーだわ


 素直で可愛いリムちゃん!


 そういえばマリーはどうしているかしら?


 ???[全エンディングクリア後に解放]

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