ピンポーンと音がして、僕は驚きで目を開けて起きた。時計を見るともう正午を過ぎていた。

誰かが家に訪ねて来ることなど宅配便くらいでしかないので不審に思いながらも僕は横になった身体を起こし、玄関のドアの覗き穴に目を近づけて、いったい誰が来たのかを確認した。

僕よりも少し年下であろうかわいらしい女の人だ。しかし、まったく知らない人である。

玄関越しにいるその女の人にばれないよう静かに玄関を離れて、キッチン寄りの居間の壁にある受話器をとった。

「はい?」

「あ、宮藤くどうさんですか?」

声は息づかいがかわいらしくて優しい。

「そうですが、なにか?」

少し間があいた。

もしかして昨日のことだろうか。しかし警察官ではなさそうであるし、犯人を特定した普通の一般人がくるようにも思えない。

そして彼女はこう続いた。

「実は私…亮の妹なんですが。」

(亮?僕はそんな人を知らない。)そう言おうとした時、ふとあの男、蘭 亮一らん りょういちのことを思い出した。

「苗字は蘭ですか?」

彼女は少し興奮した声になった。

「そうです!あ、すいません亮なんて…蘭 亮一のことをご存知ですよね?」

僕は心臓が止まりそうになった。昨日、殺した男の妹がなぜ僕の家を知っていて、そしてなぜ家に来るのだ。

まだあの男からの呪いは続いているのか。

この女も殺してしまおうか…


頭が乱れる。


だがそんな頭の乱れはすぐに静まった。彼女はただのそこらへんにいる女と変わらないはずだ。ただここに来ただけである。

そして僕はどのみち警察に捕まり、檻によって保護されるのだ。

僕は本当のことを言った。

「はい、亮一さんのことを知っていますよ。」

僕はあの男を殺した恨みであるのならば彼女に殺されても良いと思った。

しかし、彼女はそんなことはまったく考えていないようだった。

というより昨日起こったことはまったく知らないようであった。

「実はその…亮一と三ケ月前から連絡が繋がらなくて…。それでなにか亮一のことを知っていそうな人っていったら大学時代にとても仲の良かった宮藤さん以外に思いつかなくて。どうしても今、亮一がどうしているのかを知りたいんです。亮一とは今もお付き合いしていただいているんですよね?」

あの男と僕のあいだに果たしてそんな“仲がいい”というような情の通ったものがあったことがあったのだろうか。しかし、彼女を見ているとなぜだかほっとけない気持ちになった。僕は嘘をついた。

「そうですね、事情は分かりました。今、玄聞を開けますので中にどうぞ。」

僕は受話器を置き、ガチャと大きい音を立ててドアを開けた。

目の前にいる彼女は覗き穴からのぞいた時よりもかわいらしく見えた。

僕はなにを考えているのだと思いながら中へ彼女を入れた。

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