第7話
「……何だその掲示板は」
「これは数年前からウェブ上で公開されている『迷宮のサンドリヨン☆イケパラ学園で底辺美少女が見初められて溺愛(意味深)されちゃいました☆』という乙女ゲームの検証掲示板です」
「ふざけてるんですか!?」
「失礼な!ここに書き込んでいる人達は全員真剣です!」
やっぱり真っ先に沸騰する金意が更に沸く前にギャラリーがわっと沸き立つ。
ゲームの話キター! 糸帛さん知ってんの!? 誰だよ凸ったの! いやもうこれとっくにゲームのシナリオから逸脱してるじゃん。すまん俺おふざけ半分だわ。ゲーム予言書説崩れた……。など好き勝手言い出していて収集がつかなくなりそうだ。
机をまたガァンと拳で打ち鳴らす。
「……拳が痛い!!」
「そりゃそうだ!」
突然の奇行とも言える平良の行動に出鱈目以外反応できずポカンとしている。
彼の方もどこかつぼに入ったのか口を押さえて大笑いするのを堪えている。
「ええいとにかく私にしゃべらせなさい! 私を誰だと思っているの! 超天才プログラマー少女なるぞ! 声をかけられた時点で掲示板など丸裸よ!」
「「おおー」」
「自分で天才って言っちゃうんだ……」
平良が製作者であることは話がややこしくなるので秘密のままなのは許してほしい。
勢いに任せてギャラリーを黙らせることが出来たことに、これ幸いと話を続ける。
笑い転げながらツッコミを入れてくる出鱈目は無視だ。
「もしかしてそれが君の本性かい?」
「……これでもあなたの婚約者と言う立場でしたので体面くらい繕います。まあ繕い方が拙く、あなたの前ではしどろもどろになっていたのは否めませんが」
頭の中であれこれ考えているうちに行動する気力がなくなる行動エネルギー対消滅型なので、他人から見ると省エネ人間のようにも映るでしょうしね。
などともはや言質を取られることにも気にせず捲し立てる。
月福は平良がそこまで精神的に追い詰められていないのだと気付き歯噛みしている。
これで成果が出ていないとなれば、今後ヒロインを利用する行為は彼女が自ら関わらない限りましになるはずだ。
ゲームシナリオの主軸というメタはあるものの、この婚約破棄の成功でヒロインを使うことに味をしめたのが大きかったからのように思う。
ゲームを作っていく内になんとなくわかったことだ。
「それでこの写真は一体何なんですか!? と言うかさっきから気になっていましたが、出鱈目は糸帛君ばかり庇ってませんか!? 裏切り者なんですか!?」
「裏切り者も何も、平良ちゃんとオレは幼馴染みなんだが?」
誰も聞いたことがなかった事実にえええ!? と大合唱が起こる。
そう。説明するタイミングを逃していたが二人は幼馴染みだ。
そしてこの出鱈目、実はカウンセリングの先生の甥なのである。
チャラい感じのキャラの裏で高校生探偵をしている彼だが、ゲームでは攻略対象として登場するのは一番遅いキャラクターだ。
本来ならば平良とは特に接点がなく、むしろ彼女への嫌がらせ証拠を集めるために依頼されて初めて関わるくらいだ。
だがそこから月福に対して不審感を抱いた出鱈目は彼が最近気にかけているヒロインに近づきそしてお決まりのルートへ……。
出鱈目とはカウンセリング先生の下でゲームを作っている最中に出会った。
ゲーム主要人物以外の名前を覚えられない、というハンデを抱えてしまった平良の代わりに出鱈目がスタッフとの連携を受け持ってくれていたのだ。
今思うと平良のことをすんなり信じた事といい、名前が甥と同じだからという理由で関わらせたりとカウンセリング先生は頭おかしいんじゃないだろうかと思う。
とても感謝していることには変わりないが。
ちなみにかの先生は時を経てオネェ言葉を話す強烈キャラになってしまわれたとさ。
イケメンだから色々あるんだろうなと平良は勝手に思っている。
「……出鱈目さんはあくまで中立の立場で居てもらっています。私寄りに見えるのはあなた方が月福さん寄りに心情が偏っているからでしょう」
「僕は最初から中立です!」
「お前が中立って冗談だろ?」
確かに金意が中立を名乗るにはバイアス掛かりすぎな上に正義感が空回りで話にならない。
竹肋と合わせてゲーム・現実双方で月福と友人関係を築いていて、とても素直な人物なのがこの金意だ。
ポジションやルートなんかはこの手の人物にありがちなパターンを踏襲していたように思うので説明は省くが、ただやたらと竹肋とセットになっていたことは記憶に残っている。
金意が検事志望で竹肋が警備会社の社長子息な訳だから、月福に対して悪いバイアスが掛かりまくってる平良からすると将来悪いことに巻き込むために囲ってるようにしか見えないメンツである。
ゲーム知識から金意のポンコt……素直な質を知っていたのであまり気にしていなかったが、出鱈目はそうではなかったようだ。
自分でろくに調べもしなかったんじゃないか? などこれまでの的外れさをあげつらい煽っている。
金意は素直なので煽り耐性も低い。
「僕は将来検事になる身だぞ! 持ってきた情報を信頼して精査するのが僕の役目だ!」
「じゃあその情報を持ってきたのは誰だ? そんなに信頼してたってのか? それはありがとな。オレの情報とか出し渋りも大分あったのにな!」
中立だってスタンスなのに出し渋ってたとかゲロってんじゃねーよ。出鱈目も大概ポンコツである。
「お、お前はともかく! 竹肋は僕の信頼する親友だ! 愚直で嘘のつけない……いや、僕に対して嘘なんか吐いたことないんだぞ!」
「その竹肋は月福に心酔してる。奴が黒と言えば黒だと思う駄犬野郎だってのは知ってるのか?」
「は?」
「竹肋がお前に嘘をつかねぇでも、月福が都合のいい嘘をつけばそのまま信じるんじゃねーの?」
言われてやっとその可能性に思い至ったのか、そんな……と信じられないものを見る目で竹肋を見る金意。
竹肋はがっくりと彼から目を逸らすように俯いている。
心酔してる? という位だからこの月福の名誉が侵害されそうな場面に憤慨しそうなものだが、ずいぶんとおとなしい。
まあゲームでも根は随分と争い事が嫌いな平和主義者だったので、こんな状況になって混乱しているのかもしれない。
「……さて。月福さん達が集めたという嫌がらせの証拠が当てにならないと証明されたので、次は写真の検証に移りましょうか」
「ひどい話だ。こちらが苦労して集めた物をゴミのように扱っているけど、その写真こそ当てにならないだろう? 自称天才プログラマー少女さん」
「……私が合成した物だとおっしゃりたいと。でも残念ながらこれは私が撮った物ではないんですよねぇ。おお……なんなら掲示板上ではリアルタイムで検証されてますね。プロでも混ざってるんです? すごい早さで合成ではありえないと検証結果が並んでますね。しかも複数のIP から」
なにを、と信じていない月福に掲示板を開いたままのスマフォを渡す。
この騒動が始まってから実況する板が立ち上がり次々に寄せられる情報。そしてそれを検証する住人。
学園の裏掲示板の割には人が多いのが気になるが、荒れている様子はないので変に流出したわけではないと思いたい。
月福の写真が上げられてしばらく時間稼ぎで金意を弄っていたが、余裕で間に合ってて草が生えそうだ。
「なっ……なっ……」
「……思い出しました。これは数日前に『貴女にそろそろ大変なことが起こりそうだから行動範囲に監視カメラ付けてもいいですか!?』と聞かれて許可したカメラの写真ですね。あっ今検証の末、元動画がアップされたようですね」
「監視カメラだと!?」
学園の許可は取ってありますと言われましたよと告げると、月福は物凄い形相で掲示板を追い始めた。
掲示板の使い方がわからなかったのか途中彼が固まる場面もあったが、気づいた住人が誘導するなどサポートしていた。やさしみ。
この婚約破棄騒動を通じて当事者達がゲームを知らなかった(?)と確定していたので、月福を指してラスボスと囁く声も増えて来ている。
掲示板内ではやはりこのゲームは予言書。誰がこれを利用して破滅の運命を覆したのだ! 「「「な、なんだってー!」」」などとお祭り状態だ。楽しそうでなによりです。
「乙女ゲーム? 予言? なんなんだこいつらは! 不合理極まりない! こんなくだらないオカルトを、こんなにもたくさんの人間が信じてるとでも言うのか!?」
「……さあ? でもそのおかげでこんなにも中立的な証拠が揃ってますよ?」
平良でも実はこんなに上手く行くとは思っていなかった。
というより月福自身が実行犯になって尚且つそれを撮られるとは思わなかったのだ。
何故だろうと思っていると意外にも答えをもたらしたのは出鱈目であった。
「蜥蜴の尻尾切りとはいえ、悪事の下請け共が次々摘発されて内心よっぽど慌ててたらしいな」
「……なんか知ってるの?」
「オレこれでも探偵だからね? まあすぐ分かるよ」
そのすぐは間髪いれずに来た。
月福の元にボディーガードらしき黒スーツの男が月福の元に走り寄ってきたのだ。
耳打ちする黒スーツにどういうことだ!? と月福は声を荒げた。
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