第2話 暗い世界

僕の声に反応して、女性が振り向く。風に吹かれた髪を抑えながら僕を見つめた。


「…なぁに?」


「そこは危ないですよ。こっちに来て下さい。」


女性は静かに顔を横に振る。そしてまた背を向けてしまった。僕も助けを長原さんに求めるため後ろを向くが、そこに長原さんの姿はなかった。


「……ねぇ、何で貴方は私を止めるの?」


「え?…そりゃあ、命を捨てるだなんて駄目な話ですし、何より、貴方が死んで悲しむ人がいるでしょう?」


「…いいえ、いないわ。……でも、もし私を助けたいなら…」


そう言って、また女性は振り向く。長い髪が風に吹かれ、太陽が女性を照らした。


「1ヶ月だけ、猶予をあげる。だから、その間に私を止めて?」




「美味しい!!やっぱここのチーズケーキは絶品よね~~」


現在僕の前で美味しそうにチーズケーキを食べているのは先ほどビルから飛び降りようした不思議な雰囲気を纏った女性である。長原さんとこの女性に言われ、しょうがなく一緒に行動しているのだ。

一体何があったのか、急なテンションの変わりように僕がついていけない。甘いものは大好物らしく、向かった場所は近くのカフェ。とても美味しそうな顔をしてチーズケーキを食べていた。


「というか、何で死のうとしたんですか?そんなにチーズケーキが好きなら、生きがいあるじゃないですか。」


「ん~あれよ。甘いものは別っていうやつ~」


「いやそれ意味違くないですか?」


チーズケーキを完食しフォークを皿に置くと、女性はまた不思議なオーラを漂わせた。


「…世界が、暗く見えるの。」


「暗く?」


「そう、私ね、結構ネガティブ思考で。人間が怖いっていうか。恐ろしいっていうか…」


「…人間がですか?」


「うん、まぁもし貴方が私を救ってくれたら教えてあげる!」


「はぁ」


そしてまた、彼女は明るい表情を見せたのだった。

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