8話 空からの来たる災い


 魔物に逃げられ、紫炎しえんを消せなかった日王ひのおうは、魔物に味方する影狼かげろうが奇襲を阻み、陽光ようこうで照らしても発生した冷気から考察し、見えぬだけで存在すると考察した末、呑まれる炎は使えず、陽光で照らしても紫炎を対処しきれない事から、正面から戦っても勝てない――と考えた。


 僅かな光で世界を見る者たちに紫炎の追跡を任せ、少数の兵士と共に、日国ひのくにの本拠地〝王城〟へ向かった。


 道中、立ち寄った砦で休息していると、強烈な光と共に轟音が聞こえた。

 従える兵士へ出撃の準備を命じた日王は、砦の一室に備えられた窓から、轟音が鳴り響く中、鞄から取り出した金属の飾りが付けられている手甲てっこう食電しょくでんのお守り〟を利き腕でない方の腕につけた。


 間隔を開けて、何度も繰り返される空から降る雷は、近場の林へ落ちた。

 止んだ雷が最後に落ちた林の中で、発光する何かが動いている様子から、落ちた雷が生き物に当たった――と判断し、うごめく光が近づいてくることを見た日王は従える兵士たちへ、雷を退治しに行く――と告げた。

 金属で作られた〝食電のお守り〟を持ったか――と確認したが、十名ほどの兵士しかお守りを持っていなかった。

 地上に落ちた雷と対峙するには、自身の身代わりとなる〝食電のお守り〟が無い者は雷に支配される可能性があることから戦いに参加させがたい――と考えた日王は、持つ者を同行させ、持たぬ者たちには、砦の者たちを手伝うように命じた。



 陽光ようこうを放つ陽玉ようぎょくで暗闇を照らし、標的の下へたどり着いた日王たちは、バチバチと鳴り、目視できる電気を纏う化物と対峙した。

 化物の周囲には、化物と同様に電気を纏う人間が数人いて、動きが鈍く人間らしさが感じられない。


 雷の落ちた生物は自我を失い雷の精霊に支配される――事があり、精霊の電撃を受けた生物は伝染し、同様に支配される。


 すべてが放電するまで解放されることは無く、雷や電撃で死ぬこともあるが、生きている可能性がある限り人命を優先したい――と考える日王は兵士たちへ、金属製の武器を用いて帯電する電気を奪い助けろ――と数人へ命じ、残った者たちは、雷を纏う化物の討伐を命じた。


 化物が飛ばす電気を受けた金属製の剣を〝食電のお守り〟に押し当てた日王は、電気を失った剣で化物へ切りかかった。



 …………。



 化物の電気が無くなり、精霊の支配から解放された化物は倒れ、意識が失われていた。

 支配されていた人々も意識を失っていたが、生存者がいると兵士から報告を受けた日王は急ぎ砦へ運ばせ、動き出す前に、化物を仕留めた。



 砦を出発した数日後、王城へ着いた日王は、聖火せいかを用い人々を束ねる火守ひもりたちの本拠地へ向かわせた使者が帰還していた。


帰還した使者から、紫炎の危険性を告げて説得したが我々を信じなかった――と不満げな気持ちを隠す報告を聞いた日王は、両陣営の間にある溝は事態を悪化させている――と再認識した。


 前時代の書物が大量に保管されている王城の大書庫は、過保護な父親(前日王)から城内に軟禁されていた幼少期に、暇つぶしを目的に入り浸っていた日王が様々な知恵を身に着けた場所であり、思入れが強く、静かな内部は落ち着ける場所でもある。

 殆どの本は読んでいるが、紫炎や影狼の事を詳細に調べたいと思う日王は、書庫に籠り時間を忘れて本を読んだ。


 時がたち、紫炎が聖火を呑みこんだ――と報告を受けた日王は、詳細な情報をまとめた後に開いた会議で、紫炎を対処する為に戦う準備を整え火守の協力を得るために使者を送ることが決まった。


 書庫で調べてまとめた情報を持たせた使者を再び火守の下へ向かわせた日王は、口が堅く信頼する配下へ、火守と戦う準備を秘密裏に進めるよう、命じた。

 今の時代で人間同士が争った経験は乏しく、兵士たちがまともに戦えない可能性を危惧され、他の方法は無いのですか――と消極的な意見を述べられた日王は、最大で最強の聖火〝炎帝えんてい〟が紫炎に呑まれ陽光でかき消すことが叶わなくなったなら勝ち目はなくなる――と答えた。

 紫炎が炎帝を呑みこんでも陽光を上回るとは限らないが、上回らない確証がない現状では、火守が協力を受け入れない場合、紫炎が炎帝を呑みこむ前に、炎帝を消すことが容易に思いつく手段であった。

 火守が協力に応じようとも、日国と火守の連合が紫炎を止められないなら、味方をだまし討つ形で、炎帝を消す可能性も追っている日王は、追い詰められたなら一部の人間を敵に回してでも紫炎に力を与えない方法を選択しうる――と自己分析している。



 思いつくもう一つの可能性を確かめるため、日王は一人、神殿へ向かった。

 王城に存在する巨大な神殿で、ドーム状の屋根を見上げると、強くて暑い光を放つ巨大な陽玉が見える。

 目を傷める程に、強い光から目を逸らさず、見つめる日王は、求める答えを望みながら、陽が見せる答えを待った。

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