7話 灯る炎は何色か


 天より降り注ぐ光は人々に広い世界を与えていた。


 天の日が陰り、闇に包まれる世界は狭く、唯一神〝よう〟の化身〝陽玉ようぎょく〟が発する光に導かれる者たちは、陽光が映す世界で生きる。


 神の力が陰り暗闇に包まれても神が見せる世界を信じ続ける様が、神を妄信する愚か者――と考える炎の精霊〝聖火せいか〟の守り人たちは、一度でも陰りを見せた神の光に依存せず……薪をくべれば燃え続け……人次第で強くも弱くもなる聖火こそ……暗闇に包まれる世界で人間を救いうる存在だ――と神に頼らない生き方を提唱する。


 陽光を信仰する神官と険悪な関係になったが、化物や魔物などの人間を除く脅威が存在する世界で人間同士が争う不利益から、武力的な衝突は起こっていないが、同じ道を歩むことは無い――と結論付け、敵対しないが協力もしない冷めた形成された。



 世界が暗闇に包まれる前、聖火の守り人は当たり前に存在する陽光を軽んじ、聖火を重んじた故に、神に対する信仰心が弱く、炎の精霊を操る人の力を過信していた。


 陽光に包まれた世界に化物は居なかった(未発見)という前提で、天の日が陰り暗闇に包まれた世界に現れた化物から人々は苦しめられ神が大地を照らし続ければ化物は現れず人々が闇に脅える事も無かったはず――と言い、今は安定してる陽玉も何時しか消えるのではないか――と主張し、保証無き神に縋る危険性を説き、神に縋ることを辞めて人が自立する時は今である――と語る火守は多い。


 聖火で暗闇を照らす聖火の守り人は、日国ひのくにと協力せず、聖火を用いた人の力で生き延びる――と掲げ、神を頼らない方向性を定めて活動している。


 陽光は聖火の輝きを邪魔する事から、聖火を見るなら輝きを強める暗闇で見るべき――と考える火守ひもりは多く、日国の協力を得ないことは正しい――と説き、聖火を頼る人々から支持を集めようとしている。



 聖火の最大拠点を訪れた日国の使者から、逸話で語られる炎を侵食する紫炎が実在し聖火が狙われる可能性がある――と告げられ、紫炎を消す陽光の力が必要になる――と協力体制を求められたが、最も強く大きい聖火〝炎帝えんてい〟が照らす巨大な城を拠点に活動する日守たちは、陽光が紫炎とやらを消し去る力があるなら我らの協力を求めずとも勝手にすれば良いではないか――と返し、見下す使者が語る内容から、協力を求める動機は紫炎ではなく、炎帝の超越的な力を利用したいのでは? と考え、紫炎の話が嘘である可能性に思い至り、協力体制を拒んだ。




【少し前(時間)の違う場所で】


 赤々と燃える火が石造りの城壁を照らす。

 城壁の一部は崩れているが、暗闇に潜む化物を警戒しながら、建材を運搬する程の人員は存在せず、応急的な処置をされ、放置されている。

 修復を必要としない城塞も存在するが、この周辺にある要塞の殆どは、天から陽光が降り注いでいた時代の最期に起こった戦で破損している。。

 化物の侵入を防ぎ生活できる機能性があれば贅沢と言える時代では、部分的に壊れた城塞も上質な住まいになっている。



 物見櫓ものみやぐらから魔物の接近を察知した見張りが鳴らした鐘の音は城塞内に響き渡り、兵士たちが慌ただしく動き出す。

 鐘の音を聞き、物見櫓を訪れた〝聖火の守り人(火守ひもり)〟は、魔物たちを照らす紫の不気味な光を警戒し、城外へ兵士を出させず弓の威嚇で様子を見ることにした。


 火守は城内に作られた聖域へ行き、燃え盛る聖火の中へ、太古の木で作られた獅子を模る大きな木彫りを入れた。

 強く大きくなった聖火の中から現れた炎をまとう獣へ、魔物を蹴散らせ――と命じた火守は兵士へ、城門を開けろ――と指示を出した。


 指示を聞き走り向かってくる炎を纏う獅子を見た兵士(達)が慌てて城門を開けると、失速せず走り去った獅子は、瞬く間に紫の光へたどり着いた。


 物見櫓から魔物と対峙する赤々と燃え盛る獅子の様子を見ていた見張りは、紫に染まる獅子を見た。


 同様の光景を見ていた火守は、様子見で兵士を失わぬために〝ほのおまと獅子しし〟を送り、悪くても炎を消されるか……筋肉のように動く木製の身体が壊されるか――程度に考えていたが、予想外で遠目からは状況が把握できず方策を探した。



 紫の炎に染まる獅子が城門へ走り迫る姿を見た兵士全員が状況を把握することは出来なかったが、心強い味方が敵になった――と思えた城壁に立つ兵士が、閉じられた城門の側(城内)で待機する兵士へ、城門から離れろ――と叫んだ。


 叫ばれた声を聴き、反射的に身体を動かした者と違い、意図が分からず迷いが生まれた兵士は、城門を突き破る獅子の突撃を避けられず巻き込まれた。


 回避できた兵士たちは武器を構えるが、痛みを感じず燃え尽きるまで敵を切り裂き噛み千切る炎纏う獅子と対峙する恐れを抱いた。

 自分たちが信仰する赤々と燃え盛る聖火の面影がない、紫色の炎? に包まれる獅子は、味方ではない――と思わせるだけの姿をしている。


 確証無き理由(赤々とした炎が紫に染まった様に見えた)から、紫の獅子を聖火へ近づけてはいけない――と思った火守は兵士たちへ、獅子を止めろ――と熱烈に命じた後、走って神殿へ向かった。


 火守から発せられた声に必死さを感じた兵士たちは、全容は分からないが切迫した状況を察して、紫の炎に包まれた獅子を止めなければ何か大変なことが起こり得る――と思い、戦う決意を固めた。



 聖火が赤々と燃え盛る聖域で敵を待ち構える火守は、扉を開けて見えた魔物たちへ向かって、聖火で灯した球(太古の木で作られた)を投げつけた。

 敵に近づいた球が爆発して現れた巨大な炎が魔物たちへ向かう様子から、炎が魔物を燃やす意思を感じた火守は、上手くいった――と思ったが、魔物を包む赤々とした炎は紫色に変わった後、魔物を包む紫炎が負わせた火傷を治し、結果的に損害を与えられなかった。


 聖火が有効ではない敵に自分の無力さを理解した火守は、兵士たちを頼り声を張り上げて兵士の名を呼んだが、もう戦える兵士は居ない――と告げながら現れた少年の言葉を聞き、獅子を討てなかったのか……討てたが魔物たちに負けたのか――と考えたが、どちらでも結果は変わらない――と思い考えることを辞めた。


 戦意失った火守は、聖火へ歩む魔物たちを止めず眺めていると、魔物が持つ松明に灯る紫の炎が聖火に触れた時、赤々と燃えていた聖火が紫色に染まる光景を目にして、預かった炎帝の子が敵に染まった――と気付き、守れなかった失態を実感し、炎帝や同胞へ謝罪の言葉を思い浮かべた。

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