6話 見つめなおす機会


 陽光ようこうに浮かぶ日国ひのくにの拠点を見て、現在地を把握する魔物知恵を用いる少年たちは、自分たちへ迫っているように思える陽光から逃げようと移動していた。


 魔物に先導され、火の光もない暗闇を通り、人間と出会わぬように歩み続けていると、前方で発せられた光に浮かぶ多くの人間を見た魔物から報告を受けた少年たちは、日国の待ち伏せに気付き、避けるように進路を曲げた。


 逃げ切れず、戦闘になると判断した少年は、魔物たちが持っていた紫炎が灯る松明をたくさん投げて、紫炎の壁を作った。

 陽光に照らされ、かき消された紫炎を見て調子づく日国の兵たちを見た少年は、兵士が紫炎の中に入ったことを確認して、紫炎の熱を奪う力を発動させ、動きを鈍らせた。

 少し時間を稼げたが、冷気の領域を突き抜けて迫る勇猛な兵士を見て、逃げずに対峙した魔物たちから、先に行け――と手を使い示された少年は、犠牲に出来ない――と拒んだが、長なら仲間の気持ちに応えるべき――と少女から説得され、生き延びることを祈り、感謝して先に進んだ。






 足止めをした魔物たちが合流する気配はないが、追手の気配がない事から、自ら進み決意した役割を果たした――と考える少年は、人間を仮想敵と考えながら、人間を殺したくない――と思い、戦いを避けるため力を得よう――などと綺麗ごとを語った自分の愚かさに気付いた。

 一人、落ち込む少年は、魔物から指示を仰がれたが、魔物に応えられる自信がなく、相応しくないと思い、答えが見つからない――にとどまらず、考える事すら放棄していた。

 心配そうに答えを待つ魔物たちの様子を見る余裕がない少年は、早く答えろ――と少女から叱られ、失敗して……根拠ない自信がなくなって……責任を放棄した駄目な人間でも……期待する者がいる限り責任はあるんだよ――と励まされた。


 期待されていない責任は自己満足と言い換えられるが他から期待されたなら果たすべき義務(道徳的)となりえる。※作者の個人的見解


 自分勝手な夢のような理想に仲間を突き合わせ、犠牲を出す覚悟もない自分の為に、自ら犠牲になった仲間たちを軽んじていた自分に気付いた少年は責任を迫られ、本心から人間を捨て魔物を導く長になる覚悟がないまま進むことは出来ない――と価値観を見直した。




 紫炎を見つめ、魔物が生き延びる方法を考える少年は、炎の精霊〝聖火〟を紫炎に呑ませて支配できれば強い戦力になり得る――と思いついた。

 聖火の中でも最大で最強と呼ばれる炎帝えんていなら陽光でかき消されない紫炎を作ることが出来るかもしれない――と思い至った。

 幸い、天の陽光が陰り復活の兆しが見えず神様(陽)を信じて耐え続けることは出来ない――と考えた聖火の守り人たちが、日国から離脱してしばらく経った今の両陣営は、敵対関係ではないが仲間でもない――と言える悪くはないが良くもない状態。

 陽光を相手にしないなら魔物も紫炎を使えて炎が脅威となりえない紫炎なら戦力が少ない現状でも相手を選べば勝機はある――と考え方針を決めた少年は魔物たちを集めて、聖火を呑みに行く――と伝えた。




 人間と敵対はしても殺し合う気はない――などと少女へ告げた過去の自分から変わろうと考える少年は、甘かった自分についてきた少女へ、残念だけど一緒にはいられない――と別れを告げた。

 陽光まで送り届けることは出来ない……ごめん――などと謝り、呆然とする少女の様子から、自分を曲げて失望されたよね……と思った少年は、少女を侵略的な戦いに巻き込めない(今までは防衛的)と考え、別れを決意していた。



【毛色を変えて……(試しに)】


 魔物の下へ向かう少年の身体を太い木へ押し当てた少女は

「ねえ、それって、どういう意味? ……、

私は、仲間じゃないってこと?」


少年「それは…………」


 言葉に詰まる少年の様子が不満な少女は

「私はっ…………、

助けてくれた貴方や……、

化物と戦った……、

追手からも一緒に逃げた魔物たちが、

仲間だと思っているのに……、

あなたたちは、

私がっ…………仲間だと思ってくれないの!」


少年「ちがう」


少女「違わないでしょ!」


 少女から怒り由来の不満げな眼差しを向けられる少年は

「思ってる! ……けど、

君は人間だから……」


少女「貴方だって(割り込まれ)」


少年「(割り込み)僕とは違う!

君は人間として生きられる……けど……僕は……」


少女「帰れないから魔物を導くの?」


少年「それは………………(部分的に図星)」


少女「私はね、あの子たちと過ごした日々は楽しくて……、

みんな(陽光で暮らす人々)と合流したら終わるって……、

別れるなんて、考えたくなかった……、

だから残ったのに…………、

あれは、誰かに言われたからじゃない……、

自分の意思で帰らなかった……、

あの時から、あの時、私を受け入れてくれてから、

私の居場所はここにあると思っていた…………、

なのに……」


少年「……」


少女「みんなから見捨てられないといけないなら……今ここで目をつぶす……」


少年「待って、冗談でしょ、冗談だよね」


少女「本気だよ……疑ってもいいけど、邪魔しないでね」


少年「分かった、分かったから」


少女「……何が?」


少年「認めるから! 仲間だって」


少女「ほんとに?」


少年「ああ、居ていいから、付いて来て良いから、だから辞めて、落ち着いて」


少女「約束する?」


少年「ん、あぁ……約束する」


少女「絶対?」


少年「絶対」


少女「分かった…………、辞める……」



 胸をなでおろす少年の様子を見て少し落ち着いた少女は取り乱した恥ずかしさや抱いた不満を晴らすために揶揄いたくなり

「(咳払い)今回は、まぁ、初めてだから大目に見てあげる…………けど」


少年「……けど?」


少女「次は無いから……(どす)」


少年「分かった、分かったから」


少女「信じてあげる♪」




 ドキドキ、ハラハラ……と見ている魔物たちから囲まれている事に気づいた少年は、分かれずに済んだ――と嬉しそうに報告する少女をへ駆け寄り、喜ぶ魔物たちの様子を見て、仲間から見捨てられた過去を未だに引きずり、見捨てられた自分だから仲間になれた――と素性や待遇に固執する自分の愚かさに気付いて、気持ちを優先すべき――と考え、魔物たちの寛容さを見習おう――と思った。

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