4話 光無き世界の王


 紫色に照らされた木々の間を歩む少女は、遠くに見える陽光が強くなったと感じた。

 人を守る陽が発する光は人がいる証だが、強く光った事から危機的な状況に置かれている可能性を予感させた。



 心配する少女や警戒する魔物の様子から陽光が発したと気付いた少年は、少女を合流させる目的を果たすため、人々から見つからぬよう慌てず急いで慎重に、焦り先導する少女の後を追って平野の方へ向かった。

 徐々に人々の悲鳴や奮起を促す叫び声が聞こえてくる。

 木々で紫炎を隠し、陽光を見る少女や魔物からの情報を待つ少年は、人が〝化物ばけもの〟に襲われている――と少女から告げられた。





 日が陰り現れた――とされる化物は、弱き光で世界を見通し、闇の世界で猛威を振るう獣。

 闇に潜み光に住まう獲物を狙う――事から近づかれるまで察知する事が難しく、気付いた頃には手遅れとなり、蹂躙される事も珍しくない。

 相手からは姿が見え、自分からは見えない獣の奇襲を防ぐには人員や火の明かりを割いてでも警戒を怠れない。

 光がない限り、闇はあり、広大な平原も、そびえ立つ山々も、生い茂った森も、すべてが化物に支配されうる。



 弓を射る人間を優に超える大きな身体に備わる発達した後ろ足で地面を蹴り、光の中を走り回る化物を捉えきれず、攻撃が当たらない人々は、暗闇に出ても逃げ切れないと知っている事から光の中から出られない。

 女子供を建物へ避難させ、槍を構え化物を牽制する男たちは、助けが来るまで持ちこたえる――と言う、確証なき希望にすがる他なかった。


 前足に備わる鋭い爪は死を予感させ、振り上げられた前足が下ろされた地面から鳴り響く、大きな音からは、爪がなくても――と思わせる重さを感じさせられた。

 敵わない――と思う人々の弱る心を奮起すべく、集団の長は声を張り上げて、化物を目前に脅える男たちへ檄を飛ばす。

 後がない、逃げ場がないと再認識した男たちは、最後の砦を守るため、化物と対峙する強い決意を抱いた。





 陽光が見えない少年は距離はあり紫炎も届かない現地の状況が分からず、少女から説明を受けた。

 帰る場所が無くなれば、少女と行動する意味がないと思い、化物から人々を助ける方法を考えた末、少女を介して影狼に協力を求めた。


 赤く大き炎を焚いて、大きな音を鳴らし、頑張って叫び、化物の注意を引いた。

 陽光から離れ、向かってくる化物の様子を見つめる。

 恐怖に耐えた少年は、身を焦がす熱で捉えた炎を紫炎に呑ませた。

 紫炎に呑まれ、炎の弱く紫色へ変わった光に照らされて浮き出た影狼は化物に牙を剥いた。



 影狼に気付いた化物は身を翻して人々が居る光の中へ戻ろうしたが、化物を包み込む紫炎に熱を奪われた身体は強張り思うように動かない。

 がむしゃらに暴れて噛みつく影狼を振り払い、逃走を諦めた化物は鈍い足で力いっぱい地面を蹴り、跳びかかった勢いを利用し、自慢の鋭い爪で影狼の身体を引き裂いた。

 引き裂かれた影狼の身体から血は出ず、引き裂くために近づいた化物は、喉を噛み切られ、力なく倒れた。



 引き裂かれた身体から血は出ず、深く引き裂かれても内臓は見えず、まるでとは思えない影狼を見た少年は、暗闇を庭とする精霊――と考えた。



 光無き世界の王は、光を狩場とする化物ではなく、光で消える影狼だった。





 陽光へ向かえば、化物から生き延びた人々と再会できる――が向かわない少女の様子に疑問を抱いた少年は、行かないのか――と聞いたら、行かない――と告げられた。



 みんなと居た頃、影狼が見える――と言っても信じてもらえず、実在しない――気のせいだ――と思うようにしてたが、みんなとはぐれて影狼に助けられて、紫炎で照らされた影狼を見る魔物や少年と出会って、良かったと思う少女は、思い出にしたくない――と思った。



 少女から回りくどく気持ちを伝えられ、同行したい――と告げられた少年は、人間と戦うかもしれない――と確認を取ったが、わかってる――と返答された後、守るために……ね――と補足されて、理解者の大切さを感じて、断る理由を思いつかなかった。





 少女が同行する理由に、陽光で影狼は現れず紫炎で影狼は現れるから――も理由にした。

 直接的に、情が生まれたから――とは言えない少女。

 

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