3話 影の狼が照らされる

 紫炎で照らされた足元に気を配り歩む山道は闇に住まう獣の危険に晒されている。

 光を必要としない獣は闇に潜み獲物を探す。

 闇の中で目立つ光は、獲物の目印となり、自衛できねば、心もとない光を頼りに暗闇を歩くことは避けるべきこと。


[区切り]


 木々をかき分け、少年がたどり着いた広場の中心には、上を見上げても葉が見えぬほど、天高く伸びる巨大な樹木が生えていた。

 紫炎を頼りに大樹へ近づくと、根元に横たわる人間を見つけた。

 周囲の探索を魔物たちに任せて、横たわる人へ近寄り紫炎で照らし確認すると少女だと分かったが、動かない様子から心配になり、肌へ触れると冷たかった。


 孤独に死ぬ少女が過去の自分と重なった少年は、助けたいと思い熱を力に変える紫炎の力を試すことにした。


 以前、男(2話登場)が持っていた希少な石(燃料)で火を焚く少年は魔物に、炎の質が大きく赤々としているか? と確認し、頷かれてから近づけた紫炎は、赤々と燃える炎を呑みこんだ。

 紫炎に呑まれた赤い炎は紫色に変わり、発していた熱は冷めた。


 意識なく横たわる少女を両手で抱きかかえた少年は、熱を奪い元気に揺らめく紫炎の下へ向かった。


 揺らめく紫炎は、外に広がり、少女を受け止める形に変わる。

 紫炎の下へ着いた少年は、紫炎の揺り籠へ少女を慎重に降ろすと、優しく身体から手を放して数歩下がり、花弁が閉じる様に、紫炎に包み込まれる少女を見つめた。


 火葬を思わせる光景に少し不安を抱く少年は、背中から魔物の悲鳴が聞こえた。

 悲鳴の主を探すと、真っ黒な体が紫炎で照らされた人並みの身長を持つ巨大な狼が魔物を銜えている。

 魔物たちが持っている松明に灯る紫炎は力が弱く、巨大な狼と対峙して敵わないと思った少年は、少女の様子を確認したが治療は続いていた。

 最大の火力を使う少女の治療を辞めて狼と戦えば、追い払える可能性はあるが、希少な石がない状況で、中断すると、少女を治療する機会を失う……。


 魔物たちの命を優先するか、自分と重なる少女の命を優先するかで迷い苦しむ少年を見た魔物たちは、恐怖に屈さず巨大な狼を多数で取り囲んだ。


 恐怖へ屈さず必死に戦う仲間を見た少年は、知恵を振り絞り方策を探した。

 狼から連想した闇に潜む存在で〝影狼かげろう〟を見つけた。

 闇と一体化している――と考えられている影狼は、闇を晴らす光でかき消される事から陽光を用いる人々は脅威と見なさないが陽光に頼れず炎を用いて追い払う場合がある――という真実味のない話を聞いた事があった。

 未使用の松明に火を焚き、熱さをから火力を判断して、大きくなった頃、狼に投げつけた。


 火に照らされて、身体が歪み嫌がる狼の様子から、影狼と確信した少年が、次の火を準備し始めると、影狼が跳躍した。


 火が間に合わず、急いで回避した少年は、時を与えられず、追撃する影狼から逃げる事しかできず、魔物たちも闇に紛れて動き回る影狼を捉えられなかった。


 疲労から限界が近づく少年は、やめて――と叫ぶ何者かの声が聞こえ、思わず動きを止めた。


 少年だけでなく、動きを止めた影狼も、声が聞こえた少女の方を向いた。



 自分の足で立った少女が、影狼へ果実のお礼を言う様子を見た少年は、怒った影狼から襲われた理由が、少女を害する可能性にあったと気づいた。

 状況が分からず、困る魔物たちへ、戦闘態勢を解除させた少年は、影狼を撫でる少女から、獣に襲われて仲間とはぐれた所を影狼に助けられた――と説明を受けた。



 広場にたどり着き、疲れて火を焚き(焚火)休んでいた少女は、薄暗い場所に見覚えのない果物がいくつか落ちていて、他に誰も居ないの状況で、運ばれてくる果物の様子から幽霊を連想したが、薄暗い中で少し姿が見えて、光で消える影狼だと気づいた。


[区切り]


 仲間とはぐれた少女は、魔物から囲まれた生活に不安を抱きながら、仲間と再会するまで耐えようと考え、殺す気はない――と言う少年の保護下に入った。

 色々と要求される――と思っていたが、湧き水を貯めて運んだり、火をつけたり、獣や山菜から料理を作ったり……といった感じで想定と異なっていた

 裏を考えて悩む少女は、悩みに耐えられず、何を考えている――と少年を問いただした。


 裏がある――が前提な少女の言い分に納得しながらも、悲しい気持ちを抱いた少年は、魔物を集める理由が人間と戦える戦力を集める事だけど人間と戦いをする予定はない――と前提を説明し、人間は仮想敵だけど今の敵ではなく将来の敵でもないから人間を保護することに問題はなく、見殺しが嫌な自分の心に従った――と動機を説明した。


 理解は出来ても、陽を裏切り悪魔に加担する人間を安易に信用できないと自分に言い聞かせた少女は、お言葉に甘え続けることにした。

 姿は見えないが側に影狼もいる事から、不安は軽減されている。

 魔物が少年を守り少年が魔物を導く光景は違和感を抱かせるが、嫌いではないと思った。

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