6/3 迷子の兄妹/魔法


『魔法』―――それは魔力を消費し、決まった詠唱コードを唱えることで、事象が発現する。

 現在確認されているコードは、全部で36種。属性は火・水・風・土・無の5つに分類され、消費する魔力量に応じて魔法の威力は決まるとされている。






 ……唐突だが、レマは魔法使いだ。魔力は持ってないが、代わりに魔石を媒介に魔法を使用している。

 レマは宿の部屋の壁に魔石を押しつけ、そこにぼんやりと映る人影に頭を下げると、魔法の接続を切った・・・・・・・・・


「――本部、なんだって?」


「増援を至急送り込む、ただし慎重に作戦を実行せよってさ。――早くこの案件を終わらせたいけど、失敗がよっぽど怖いみたいだ」


「今回の指揮者ってバイル・ガロックさんだっけか? あの人あんまり大きい案件こなしてないからなぁ……大丈夫なのかよ」


「さあね。でも、ボク達が心配したところで仕方ないよ」


 そうだけどさぁー。

 ごろりとベッドに寝転がり、天井のシミを見やる。


 ……先刻、堕者――神父の男と本格的にり合り、シルビアちゃんの乱入によって九死に一生を得た自分らは、再び外で寝る気になれず、早朝から営業していた宿で部屋を借りた。

 それから現在に至るわけだが………


「あと魔法の件も聞いたよ」


 シルビアちゃん大丈夫かなと、うとうとしかけていた重いまぶたを擦りながら「どうだった?」と尋ねる。


「それが……正確には分からないけど『異端魔法』じゃないかと言われた」


「異端……? 何だよそれ」


「本来人間が使うことが出来ない魔法って意味なんだけど。――そうだね、簡単に言えば異能力に近いかな。その人にしか使えない、その人独自の定義によって生まれた魔法。

 昔は『固有魔法』って呼ばれていたらしいけど、使える人が少ない上に認知もされてなかったから、今では蔑称でもある『異端魔法』って呼ばれることが多い」


 レマさん説明ありがとう!


「なるほどなぁー。だから見たこともないような魔法が使えたってわけかぁ」


「そうだね。厄介な敵だよ」


 ………厄介、か。


 ノーティスは上半身だけ起こすと、レマをじっと見る。彼女は迷惑そうに顔を顰め、無視した。ひでえ!


「なあなあ、レマ。レマさんや」


「ボク、きみのその口調が一番嫌い。そういうときのノーティスは、大抵ボクに無茶ぶりをする」


 お、さすが相棒。自分のことよく分かってくれてる。嬉しいぞ?


「そんないけずなこと言わんとぉ、ちょいとだけ自分の思いつきを聞いちゃあくれんかい?」


「嫌」


「――自分、やっぱりあの神父の男を説得したいなぁ、なんて」


 拒否するレマに、強引に思ってることを述べれば、彼女は世界最強のアホを見るような目で自分を見た。


「………は?」


「一度失敗してるし、無謀だとは思うけどよぉ……やっぱりシルビアちゃんのお兄さんだし。それに――――少なくとも、話が通じる相手じゃんか?」


 堕者は悪魔と契約しているからなのか、それとも強い願いが歪ませているのか、――大抵の堕者はイカレてる人が多い。


 あの神父の男も、魔法はえげつないし殺すことに躊躇いもないくらいには、ぶっ壊れてはいるけど。それでも普通に話しが出来る。それはつまり、思考がまだまとも、、、だということだ。


 ………それに、あの男が言っていた『夢』という言葉がどうしても引っかかる。


「――フリックを殺した男だよ」


 レマの真剣味を帯びた声に、ノーティスは目を伏せた。


「許してるわけじゃない。許せるわけがねーよ。……こういう仕事してるから、覚悟してるからなんて、そんな綺麗事言えないけどさ」


 それでも「お兄ちゃん」と泣きながら、震えながら男を呼ぶシルビアちゃんの姿が頭から離れない。


「だけど――堕者は“救い上げ”ねぇーとな!」


 ノーティスの言葉に大きく溜め息を吐いたレマは、「ノーティスの好きにすれば」と至極面倒くさそうに呟くとベッドに横になった。

 なんだかんだ、いつもノーティスの我が儘を享受してくれるレマに感謝しつつ、自分も少し寝るかと再び横になろうとしたときだった。


「――でも、気をつけなよ」


 ノーティスに背中を向けながら、レマが言う。


「“救い上げる・・・・・方法は・・・――1つじゃない・・・・・・


「………」


 レマの忠告をありがたく念頭に入れ、睡魔に身を委ねた。


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