3/2 甘美な熱/きみのために
マザーから『裏の仕事』を頼まれ、リスト通りに
……転移魔法、そしてその前にあの二人の仲間である男から情報を聞き出すべく使った魔法のおかげで、保有してる魔力が底をついてしまい―――――
「ふふっ、キミのそんな姿を見るのは久しぶりだねぇ」
「……嬉しそうだな、マザー」
ベッドの上で身じろぐことすら億劫なほどに疲れ果てた俺に、マザーはふふふと愉快そうに笑う。
「殺し損ねた」
「でも、キミは必ず殺してくれるのでしょう?――アタシのために」
「マザーの敵は俺の敵でもあるから、……………必ず殺す」
しかし、今までの
暗殺しかないだろう。機を窺って、確実に仕留める!
……だけどヤツらに神父服見られたし、教会にこられたら厄介だな。
「マザー、俺とうぶん教会に顔出せない」
「ええ、いいわ。神父の代わりは他にもたくさんいるもの」
ねぇ、それよりも――――。
マザーがグリードの耳元で妖しく囁く。
「アタシの愛しいグリード。力が欲しいのでしょう?」
「……くれんの?」
「あげる」
そう言ってマザーは薔薇のコサージュをむしり取り、それから胸元からドレスを引き千切ると豊満なバストと緩やかに湾曲したお腹までもが晒される。その白い肌と美しいボディライン、艶めかしい雰囲気にグリードはすぐに目を逸らした。
マザーはそんな
「―――んっ」
少し力んだマザーの声と、バサッ! と鳥が羽ばたくような音がしたのは同時だった。
「……」白いベッドのシーツを眺めていたグリードの視界に、黒い羽が映る。
「グリード」
頬に手を当てられてマザーの方を見れば、彼女の姿はそのままに漆黒の翼が背中から生えていた。
―――マザーは悪魔だ。
俺はそれを知っていて、マザーと契約した。
シルビアを、守るために。
「グリード。さぁ、アタシを求めて――?」
俺は手を伸ばしてマザーを引き寄せる。
重なる唇に俺は目を閉じた。
次に目を開けたとき、カーテンから差し込む光に朝であることを知った。
―――熱い。
体が熱を帯びているのか、苦しい。意識がぼんやりとする。
そういえばあのときもそうだった。
数年前、マザーと初めて会った日――――。
――――「可哀想な子。キミは己の運命を受け入れているのに、その心に棲まうモノが抗うことを強要している。―――いいでしょう、アタシがどうにかしてあげる。その代わりに、アタシのモノになるのよ?…………グリード、キミはアタシのモノ」
あのときもマザーとキスをした。
そしたら熱くなって、だけど力が湧き上がるのを感じた。
「今回も同じだな……」
前よりも保有魔力量が増えてる。これなら問題なくあの二人を殺せる。
彼らが潜伏してる場所はおそらくマザーがすでに調べているだろう。あとは仕掛けるタイミングだけか。
「………ん?」
そういえばマザーはどこに行ったんだ? まだ朝食の時間には少し早いし、いつもなら俺の隣でゴロゴロ寝転がっているのに。
グリードは熱っぽい体を起こしてベッドから離れ、声が聞こえる部屋の出入り口へゆっくりと向かうが。
「っ!」
ガタンッ!
何かが足に絡まって盛大に転んでしまった。見れば、マザーのドレスと下着だった。
「またか……」
存外適当なところがあるマザーは、よく服を脱ぎ散らかす傾向がある。グリードは大きく溜め息を吐きながらそれらを拾い上げ、再びマザーがいる方へフラフラと歩く。
「あら、グリード起きたの?」
「……いてて。――マザー、頼むから脱ぎ散らかすの止め…………………し、シルビア……?」
転んだときにぶつけた腰を擦りながら赤い彼女に近寄ったとき、マザーと扉の隙間から愛する妹の姿が目に入り驚いた。
し、シルビア……? なんでこんな時間に。というか。え。
ベビードールを来たマザー。昨日から着替えていないために乱れきった神父服とボサボサの髪の俺。………………。
「ご、ごめんなさい!――ただ、昨日お兄ちゃん帰ってなかったみたいだから……様子見に来ただけで、」
目を逸らしながら話すシルビアの様子に、湧き上がる焦燥感。
やばい、勘違いされてる!
「シルビア、ちが―――っ」勘違いを訂正しようと口を開いたが、シルビアは逃げるように去ってしまった。誤解を解かないと! と追いかけようとする俺の腕をマザーが掴んだ。
「ちょ、マザー! 行かせてよ! シルビアが、シルビアが!」
「グリード、少し落ち着いて、ねぇ?」
「でも!」
「誤解ならアタシが解いておくわ。キミはまだ体が万全ではないでしょう?」
確かに体はまだ熱っぽいし、フラフラしてるのは自覚してるけど……!
「体調不良で妹に心配されることを、グリードは望んでいるの?」
「そ、それは……」
泣きそうな顔で心配するシルビアの顔を思い浮かべ、それは嫌だと首を振った。
「なら今は寝ている方がいいわ」
「…………誤解、ちゃんと解いておいてよ」
シルビアに、誤解されたくない。
―――あんな
しかしマザーが言ってくれると言うので、それで納得するしかない。
俺は未練がましく部屋のドアを何度も振り返りながら、すごすごとベッドへ戻っていった。
グリードが再び眠りについたのを確認したマザーは、彼のあどけない寝姿を見守りながら口を開く。
「ふふっ、可愛いグリード。でも……可哀想なグリード。アタシがあの子に言うわけないのに。
――――シルビア。グリードの心に棲まうモノ。グリードを不幸にもたらす存在。アタシはキミが嫌いなの」
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