2/2 特別な日/きみのために


「神父様、実は娘の病気が悪化しておりまして……わたくしは一体どうすればいいのでしょう!」


 今日も面倒な教会の神父兼管理人としての職務を全うしていると、礼拝堂にて女性に泣いて縋りつかれた。


 ………ンなの知らねぇよ。


 グリードは内心で大きく溜め息を吐く一方、自然と愛想笑いを浮かべながら彼女に手を差し伸べる。


「お可哀想に……。確か娘さんのお名前はクリスちゃんでしたね」


「! はい……はいっ、そうです!―――覚えていて下さったのですか?」


「ええ、もちろんです。ここへ訪れる迷い人たちの祈りが届くよう、僕も微力ながら祈っておりますので」


「ああ、神父様………」感動したように女性が俺に祈祷ポーズするが、俺は神様じゃねーぞ。


 第一名前を覚えてたくらいでそんなに感動するか?――ま、金をふんだくれそうな信徒お客様だけはちゃんと記憶するようにしてるだけだけど。


「さぁ面を上げてください。共にクリスちゃんのために祈りを捧げましょう」

「はい!」


 ちょろい。


 神父と一緒に神像の前で祈りを捧げるのは、神前料として銀貨5枚だ。半月の食費相当ってとこだな。

 そんなにお金がなさそうな身なりではあるが、女性は躊躇うことなく俺に銀貨を渡す。……なんて良い商売だろうか!


 内心ほくそ笑みながら神前堂へ行き、二人で祈りを捧げる。俺に至っては神様なんてものは信じていないので、ただ今日の仕事早く終わりてぇ~と思ってただけだ。

「これで祈りが届くでしょう」と適当に言えば、女性は泣きながら感謝して帰って行った。


 ……ま、どうせ明日も来るだろう。クリスって子の病気は難病指定で効果的な薬は見つかっていない。つまり治らないのだから。

 明日は“神の石”(外で拾った丸い石に色を塗っただけの物。銀貨12枚)を売りつけることにしよう。




「グリード、お疲れさま」


 夕方の礼拝を終えてさっさと帰り支度していたクリードは後ろを振り返り、咄嗟に眉を顰めた。


「マザー……」


 いつの間に現れたのか、赤いドレスに身を包んだ女はうふふと笑みを零した。


「あら、そんな嫌そうな顔をされるのは心外よ?」


「このタイミングでマザーが来るってことは“あっち”の仕事だろ?」


「もちろん。―――だって今日は特別な日だもの」


 グリード、貴方が16歳となって成人を迎えた喜ばしい日なのよ?


 そう続けたマザーの言葉を聞いて、そうか今日だったかと思い出す。


 誕生日。

 俺が生まれた日。

 糞みたいな人生に生まれた日。


「で? 仕事内容は?」


 自分の誕生日には興味ない、が。きっと義妹のシルビアは違う。


 毎年毎年盛大に祝ってくれるのだ。嬉しそうに「お兄ちゃん、おめでとう!」ってケーキを頬張るシルビアは本当に天使みたいなのだ。いや、もう天使だ。間違いない。


 ―――つまり、そんなシルビアの天使の笑顔を見たいから、さっさと仕事を終わらせたい!


「このリストにある人たちを殺して欲しいの。このアタシの町――『ガーデン』に忍び込んだ野犬よ」


 手渡された数枚のリストには、顔写真と彼らの寝床の所在地が記載されていた。


「そりゃ大変だ。野犬がおいた、、、する前にさっさと駆除しねぇーとな」


 リストに指で『○』を描いて指をパチンッと鳴らすと、紙はボロボロと崩れて灰になって霧散していった。


 それから現れたとき同様、いつの間にか姿を消していたマザーに「相変わらず神出鬼没……」とぼやき、神父服の上から黒いフードを羽織って、神像の裏に隠してあった剣を腰に帯びる。これで準備はいい。


「早く終わらせないとな……」


 毎年豪勢な食事を用意してくれる晩飯の時間は19時―――あと3時間しかない。


 でもやるしかない。


 シルビアのために。


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