第五夜 怒りのその後に

バン!


「父上っ!」


「あっ!待ってぇ殿下ぁ!……あぁっ!!バグ、いた!」


 扉が乱雑に開けられ、何故か笑みを浮かべて客人わたくし達には目もくれずお馬鹿さんと阿呆さんが走り寄って来る。うふふ…。一瞬猫かぶりが外れたようだけれどね。


「あらまぁ、非公式とは言え、客人に挨拶もなしだなんて、―――なんて非常識。うふふ、うふふふふふ。エフェリス国王、わたくしこれほどの侮辱を受けたのは初めてですわぁ。


さて、どのようにけじめをつけて下さるお積もりですかしら?」


 心底失望して、扉の前で興奮気味に肩を上下させるお馬鹿さんと、相変わらずの賢しらな様子で目を潤ませている阿呆さんを見る。うふふふふ、笑いが止まらないわ。扇子の向こうで一層笑みを深める私とは違い、国王の顔面は蒼白。でも、今回国王に非は無いのだもの…。さて、世間知らずな鳥頭のオウジサマお馬鹿さんには、きっちりと、後始末を覚えて貰わなくてはね?


「む?何故あなたがここにいる?……そうか!!私の王太子になる為の最後の試練に協力したから、父上に私は潔白だと知らせてくれていたのだな!!」


 ……馬鹿もここまで行けば呆れが来ますわね。都合のいい頭を持っているのはある意味幸せなのでしょうけれど、周囲に面倒が降りかかって来るから嫌だわ。


「それ以上はやめよっ!」


 慌てて止めようとする王を制してわたくしは進み出、ぱしんっと扇を掌に叩きつける。


「もう遅いですわエフェリス国王。その男、わたくし直々に処断いたしましょう。勿論――、隣の死刑囚も」


 敢えて男と言い、死刑囚という言葉を使ってくすくすと笑って見せれば、エフェリス国王の顔が血の気を無くす。倒れない辺りはさすがと言うべきかしら?後始末の代償は重いけれど。本国でお父様に裁かれるよりはましでしょう。あのお方、容赦と言う物を知らないもの。


「大丈夫ですわ。エフェリス王国自体に抗議するつもりはありませんのよ?でも…ねえ」


 それらを引き渡して安寧を得るか、倭国を敵に回すか、どちらか選べと。後者を選ぶというなら、容赦はしない、と、まぁこんな所ですわね。いちいちこんな事で戦争を起こしていれば、いくら倭国でも身が持たないので所詮ははったりですけれど。でも、はったりでも効いたみたい。


「了承、した…」


 ほらね?クスクス…。軽く笑って見せれば、何もわかっていない二人が首を傾げる。覚えておいて頂戴ね?毒杯で済んだものを罪を重くしたのは自分自身…。わたくしの家族に手を出したのなら、容赦は致しませんもの。


「ありがとうございます。ミスタ次期公爵、外へお出なさい。何人たりとて、ここへ通してはなりません。宜しいですね?それから、衛兵!」


「はっ!」


「先に捕らえられた罪人三人をここへ」


「畏まりました」


 興奮からか、かなりの速さで走っていく。断罪されるべきは後三人――。許されざるは5人――。さぁしっかりと、罪を償って貰いましょうか。



<><><><><>



「ぐがぁっ!!おい貴様っ!近衛の分際で何をするっ!俺はっ!俺は王太子だぞ!警護対象だぞ!!」


「きゃあ!!嫌ですぅ!何するんですかぁ!」


「シャロルっ!ギャッ!貴様ぁ!俺を何と心得る!次期宰相だぞぉ!?」


「やめろよ!ボクは魔法の天才だぞ!もっと丁重に扱え!!お前なんか燃やしてやる!」


「嫌ぁ!嫌なのだわ!あたくしは側妃よ!陛下の妃なのだわっ!どうして!っどうしてぇ!?陛下っ!陛下あたくしを助けて!」


 あらあら、無様な事…。髪は薄汚れてボサボサ、シャツはボロボロ。この上まだ現実を見ていないだなんて…、いっそ哀れだわぁ。でもわたくし、これでも結構怒っているのよねぇ。揃いも揃って醜態をさらしてくれればありがたいのだけれど、どうかしら?


「皆様、この期に及んでまだそんな事を…」


 アリアちゃんは優しいのね~。でも、それじゃあ為政者も法律も意味が無いのよ?喚き立てる罪人に、神官の一人が眉を顰める。


「罪人、神の御前です。静かにしなさい」


 そう、ここは教会。それも、最底辺の。これらにここが耐えられるとは思えないのだけれどね。ぎゃあぎゃあ(お下品かしら?)喚き立てる罪人を無視して、神官が罪状を読み上げていく。






うふふふふ、本当の地獄はジゴクはこれからよ?真実は神の御許で、ね?




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