あるテロリストの善意

 俺が環境保護を志した切っ掛けがあるとすれば、それは間違いなく親父の影響だ。

 影響と言っても親父から、植物を大事にしろ、なんて言われた事ははない。というよりも、まぁ、アレだ。とんでもないクソ野郎だった。

 どのぐらいクソかといえば、俺が小さい頃、庭の隅で小さい花を見付けて育てていたんだが……あんにゃろう、みすぼらしいとか言って踏み潰しやがった。しかもゲラゲラ笑いながら。

 ああ、そうだな。きっとアレが最初の切っ掛けだ。

 あれ以来、自然を大事にしない奴=クソ野郎という図式が俺の中に出来上がった。クソ野郎には何をしても良い。熱帯雨林の伐採をする異常者共の家を焼いたり、廃水を垂れ流している工場に爆弾を仕掛けたり、狩猟をしている連中の頭をバットでぶん殴りもした。ああ、俺の親父は農家だったが、トラクターの配線をちょーっと弄っておいたら、びりびり感電してな。発見が遅れて今でも寝たきりだ。ざまぁないね。

 ……まぁ、そんな事をやっていたら、賛同者とかが色々集まるようになった。考え方の違いとかなんとか、色々あったが……それなりに大きな組織になり、仲間が勝手に『グリーンアース』とか名付けた。中々イカす名前だと思う。

 で、そうして名乗って好きなようにやっていたら、スポンサーになりたいって奴等が現れた。

 正直有り難い話だった。爆弾を作るにしろ、家を焼くにしろ、兎に角現代社会は金が掛かる。いや、拾った石とかでも暴れる事は出来るが、そうなると警察とかには勝てない。勝てなきゃダメだ。だから俺達は仕事をしながら、活動をしていた訳だ。その仕事を辞めて活動だけに専念出来るのだから、悪い話じゃあない。

 当然もらいっぱなしってのは良くない事だ。だから俺達はスポンサーの要望も聞いた。どこそこの工場を攻撃してほしいとか、誰それの政治家を痛め付けてほしいとか。そんな感じだ。

 気付けば、グリーンアースは国際テロ組織になっていた。構成員も何千人にもなり、俺もテレビで「指導者カーター・スミス」なんて呼ばれたもんだ。




 ……さて、そんな国際テロ組織の代表者である俺は、警察署の前に居る。俺が生まれ育ったこの国で、多分一番大きな警察署だ。

 別に取っ捕まっちゃいない。というより、取っ捕まるのはこれからだ……何しろこれから出頭する訳だからな。

 出頭を決意した理由は、単純に今のテロ活動に嫌気が差したからだ。

 自然を荒らすクソ野郎共への怒りが治まった訳じゃない。だが、今の活動じゃ自然を守れない……そう思ったからだ。

 組織が大きくなると自由が利かなくなった。仲間と言っても考え方はそれぞれ。俺は無関係な自然は傷付けるべきじゃないと思うから、火を付けるのは周りに森がないマンションとかに限ったし、家の中にペットが居るならちゃんと逃がした上で爆破する。が、中にはそーいうのをお構いなしにやる奴が居て、それが誰それの連れだの、派閥がどうのこうのとなって、代表者の俺の意見だけじゃハブにも出来なくなっていた。

 スポンサーについても同じだ。アレを攻撃しろ、何をどうしろ、アイツは味方だ、何は敵だ……ああ、面倒臭い。それでも我慢してきたのは、そうした面倒事の果てに自然を守れると信じていたからだ。

 昨日、デザイナーベイビー施術を行っている病院を攻撃しろって言われるまではな。

 構成員の多くは賛同し、息巻いていたさ。自然の摂理に反した悪魔を根絶やしにするぞってな……馬鹿共ばかりだ。ニュースを見てないのか? 俺みたいなチンピラと違う、文字通り頭の作りが違う天才デザイナーベイビー達によって、色んな環境問題が解決してるじゃねぇか。海亀が戻ってきた浜辺とか、熱帯雨林が再生したとか、排ガスが綺麗になったとか。俺達爆弾で何もかも吹き飛ばすテロリストと、どっちが自然環境を守っているかなんてガキでも分かる。

 ぶっちゃけ、嫌気が差した。

 そうとも、俺は環境テロリスト。自然を傷付ける奴は誰だろうと許さない――――スポンサー共も、そのスポンサーにべったりな幹部も、上からの言葉を鵜呑みにする馬鹿共も。

 で、そいつらの一番嫌な事はなんだ?

 ……洗い浚いぜーんぶ吐いて、表舞台に引っ張り出される事だ。

「さてと、それじゃあぶっ壊すとするかね」

 俺は意気揚々と、警察署に足を踏み入れるのだった。

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