報告書その2:五月病ってこういうのを言うのかな

今、世間はにぎやかだ。

やれ新元号だ、やれ10連休だ、お祭り気分に浮かれた町はいつも以上に華やいで見えるけど、そんなのオレには関係ない。


この春やっとの思いで就職した俺は、たった半月の研修期間ののち会社内でも超激務と噂の部署に配属された。激務なだけならキャリアアップと我慢もできようものだが、上司がこれまた最悪で、仕事は教えない、常に嫌味を言う、たばこ休憩が多すぎて電話もまともに取り次げない。ある時そのせいでちょっとしたトラブルになったのだけど、それも「お前が電話番号を正しく控えなかったせいだ!」と怒鳴り散らす始末。


限界だった。


だからあれは本当に「魔が差してしまった」のだろう。

連休なんてお構いなしに出勤し、今日もくたくたの終電帰り(残業代は出ない)。

電車のホームは人もまばらで、物寂しい。

昼間の日差しは暖かいが夜に吹く風は冷たく、オレは首を縮こまらせた。


「今日も明日も、仕事シゴトしごと。オレ何のために仕事してんのかな」

分かってる。これがきっと普通ってやつ。確かに今の上司はクソだけど誰だって大なり小なり現状に不満はあるわけで、それはみんなも実のところ大して変わらない、と思う。違うところがあるとすれば、オレには打ち込めるようなナニカがないってこと。人生の目標というか柱というか、そういう寄りかかれるナニカ。


「あいつら今頃何してんだろ」

高校時代の同級生、大学時代の悪友。進学や就職で別れたのはそれほど遠い昔ではないはずなのに、毎日のようにバカ騒ぎしていたあの日が懐かしい。


電車が到着することを伝えるアナウンスが聞こえてくる。

今日も帰ったら風呂に入って寝るだけ。明日は6時に起きて、身支度して、仕事。

その繰り返し。


「オレ、何のために生きてんのかな」


電車のヘッドライトが迫ってくる。

それが妙にスローモーションに見えてなんだか可笑しかった。

ふらりと足が宙に浮く。

そのまま踏み出した足は地面を踏むことなく線路の中に吸い込まれる。




ことはなかった。

急に強い力で引っ張られ、オレはホームの中ほどまで引きずられる。目の前にあるスーツの裾と革靴から、最初は近くに駅員さんか会社員がいたのだと思った。オレは助けられたのだ。生きてる。少し、震えてる。


逆光に黒く、黒く濃い影となって立つそのひと。その人影はオレが言葉を発する前に、そっと平坦な口調で話し始めた。


「お辛いでしょう、苦しいでしょう。もしこの世に未練がないのなら異世界という 新天地で新たな人生を歩んでみませんか?」


新手の宗教勧誘だと思った。

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