第3話 主張による暴力

「犯人は、普段からアニメを鑑賞し、ゲームばかり...」

「部屋から出ずにゲームをして、親ともほとんど話さなかった....」

など、何か凶悪な事件が起こると、テレビはそのように取り上げることがしばしばある。

 おかしな話である、と僕は断じたい。

 アニメを鑑賞しているから、あたかも犯罪行為を引き起こしたかのように伝えるのはあまりに短絡的であり、いやそもそもこの二つは基本的には絡まないはずだ。

 当然、昨今の日本文化を象徴するものの一つであり、星の数ほどあるアニメの中には、残虐的・暴力的表現が含まれているものも存在する。然しながら、あくまで個人的見解ではあるが、世間で取り沙汰されるアニメは、いつも「萌え」系のアニメであるような気がする。とすると、やはりゲームの方に原因があるのだろうか。これには、FPSという、実際に存在している銃をゲーム内で使用し戦うことのできるジャンルがある。戦略ゲームのように戦争を広い視野で行うものから、一戦国武将を操り戦うゲーム、「萌え」系のゲームまで、多種多様なものが存在する。これらを一つずつ見ていこう。

 まずFPSについてだが、まず大前提として、日本では基本的に銃火器(エアガンなどのレプリカではなく実弾を放てるもの)は発砲はもちろん、所持も禁じられている。(ここでは猟銃等は除く)。であれば、FPSジャンルの世界のように、自由に武器を選択し、街中で発砲することなどできるはずがない。

 次にキャラクターを扱って戦うもの・戦略ゲームについてである。これもまた、現実に不可能なことが次々と繰り出される。まずゲームに登場するような近接武器は現実世界の人間では扱うのに苦労し、また危なく、法律でも規制されている。銃火器と同様である。戦略ゲームについても、大規模な戦争など一個人がゲームに感化されたからといって易々と起こせるものではない。もしそれがまかり通る世界であったなら今頃、僕がこの文章を書いている間にも日本のどこかで戦闘が行われているだろう。

 さて、最後に「萌え」系のアニメ・ゲームである。同じくこれも前提として、あのような美少女は現実に存在しない(ここでは二次元世界の基準としての美少女である。誰が可愛くて誰が綺麗かなど個人個人で大きく判断が揺れるところであるから、三次元的美少女の話ではないことを明記しておく)。彼女たちはウィンドウの中にいるからこそプレーヤーに魅力的に映るのであって、あの目が非常に大きい子らが現実に現れても怖いと思う人が大半であると思う。一方で、具体的な説明は避けるが、現実の法規制とは大きく逸脱した設定を持つ「萌え」系のアニメ・ゲームも多く存在している。それを現実の犯罪行為に結びつけるのはそう難くない。アニメやゲームで現実の認識が薄れ、現実では犯罪とみなされる行為に及ぶ。なるほど聞こえはいいであろうが、無理があるのではないか。

 第一、ゲームをしすぎたりアニメを見すぎたりすることで軽犯罪を引き起こす、などと言うならまだしも殺人事件の犯人に対して言うのは、米国の刑事ドラマを見て殺人に及んだ、と言っているのと同じである。だが、そのような論調になったことは僕は見たことがない。

 同じ日本人として不思議であるのが、今や世界中で視聴者を獲得している、日本のクオリティの高い、文化の一つに数えられるアニメやゲームを、犯罪を引き起こすファクターとして報じることである。一方でアニメによって世界での日本の評価を上げ、他方ではアニメによって日本の評価を下げる。言語道断と言わざるを得ない、理解に苦しむ行為である。

 FPSの話で少し触れたが、エアガンもアニメやゲームのように風評被害を受けるものの一つである。鑑賞用としてだけではなく、BB弾と呼ばれる、当たれば危ないが殺すまでの威力はない弾丸をガス式で発射できるものもある。最近ではいわゆるサバゲーと言って、FPSの世界のようなステージの中で、そのエアガンを使って対戦を行う現実世界での娯楽が人気を博している。然しながらこれも、

「犯人はエアガンを多く所持していて...」

などとまた結びつける報道がある。エアガンが何をしたというのだ。アニメが、ゲームが、何をしたというのだろうか。

 言いたいことを言える世の中であるから、発言することは自由である。情報をどれだけ、どのように発信するかも自由である。けれども、その言論の自由・報道の自由を濫用して、あたかも日本の大切な文化が犯罪を引き起こす一つであると言わんばかりに主張するのは、しかもそれを国民のほぼ全員が鑑賞できる公共の電波で流すのは、これは「主張による暴力」と言わざるを得ない。

 別段犯罪者を擁護しているわけではない。2話で書いた通り、被害者からすれば絶対に、絶対に許される存在ではない。また、これも2話で書いたが、どのような経緯で犯罪行為に至ったかを考え、社会が犯罪行為という結果を実らせぬよう努力していくべきだとも思う。思うが、今回書いたように、実際には全く犯罪行為とは関係のない可能性が少なからずあるものをファクターの一部であるかのように報じているのは的外れである。

 きっとそうして報じ続け、いつかアニメ・ゲーム産業が衰退しても、メディアは自分たちのせいだとは露ほども感じないだろう。メディアの影響力は絶大である。全くそういったものに触れたことのない人からすれば、「アニメってそんなに危ないものなんだ....」と食わず嫌い的忌避の感情を植え付けかねない。戦争を引き起こし、国民を洗脳できるだけの力を持っているメディアが、このまま同じ報道を続けていけば、それはつまり日本の文化を汚し、中傷し、廃れさせることにを意味する。そういった時代が訪れないことを祈るばかりである。

 

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