第2話 ステキな映える書店はお好きですか?

「僕達、どうしたら買ってもらえるんだろう?」――学童向け冒険小説が前向きに考え始める。

「私、このままトイレットペーパーにリサイクルされるなんて嫌だわ」――シクシク泣きだすホラー小説。常に最悪の展開を予想する習性を持つ。


 アメリカの経営アドバイザーの翻訳本が、突如叫ぶ。

「Don't sell the steak――sell the sizzle!」

 一同、キョトン。

 英和辞典が翻訳。

「――えー、つまり『ステーキを売るな。シズルを売れ!』ということです」


「で、結局どういうことなん?」

 お笑い事務所公式の芸人本が、さらなる説明を求める。

「ツマリですネ、ショウヒン自体をappealスルのではなく、ショウヒンの雰囲気とかイリョクをappeal……」

「イリョクじゃなく魅力だろ。なんで戦闘効果アピールすんだよ」

「Oh、ニホンゴ、ムツカシー」

 日本語が微妙な経営アドバイザーの翻訳本の説明に、お笑い事務所公式の芸人本がツッコみ、ちょっとした漫談の趣となる。


「つまり、本そのものより、本を買う事、持つ事が魅力的でおしゃれに感じられればいいのね?」――女性向けファッション雑誌。

「本屋で本を買うのが、格好いい、みたいなイメージを作ればいいと?」――中年チョイ悪男性向けファッション誌。

「そういえば、うちの実家(=出版社)も『神保町○ちのいち』なんていうね、なんか、おしゃれーな雑貨を集めた店を経営し始めましてねぇ」――落語全集。

「知ってるー。化粧品とかバッグとか食器とか、置いてるものがオシャレなのよねー」――日本全国にチェーン展開するエンタメ系情報誌。


「オシャレな感じですかー。ブックカフェとか、若い女性の間で流行ってますよぉ?」――人気女性アイドルグループの写真集。

「じゃ、タピオカドリンクとか置いたらいんじゃない?」――女性高校生向けファッション雑誌。

IDEEイデーの家具とか置いたら?」――インテリア雑誌。

える要素が大事だと思うわ」――人気インスタグラマーによるフォトエッセイ。

「オシャレなカフェ・ドリンクとかいいわよねー」――投稿型レシピサイトから作ったレシピ本。


 みな、ウキウキと妙なハイテンションになり、女性をターゲットとした雑誌類を中心に大いに盛り上がる。男性向けファッション誌が、鋭いひと言を放つまで。

「つーかぁ、それ……カフェじゃね? 本屋じゃなく」


 はっ!

 全員が正気にかえる。


 さらに絵本たちが、「裸の王様」のストーリーよろしく、真実から目をそらしていた大人たちに現実を突きつける。


「僕達、カフェの備品なの? それとも商品なの?」

 沈黙が店内を覆った。

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