第1話 革命後の世界に僕らの居場所はないんですか?

「ちょ、何言ってんの、アンタ」

 若い男性向けストリートファッション誌が、すこぶるオラつきながらツッコむ。

「革命だっ! これは革命なんだっ! レボルスィオ――――――ン! エスト・エ・スナ……」


 とうとう革命家の母語であるスペイン語まで飛び出し、いい加減、会話が成立しないので、新進気鋭の社会学者の書いた新書が解説を始めた。


「出版業界は近年、大きな変革を体験してきた。

 まず、ユーザー環境だ。

 パソコンが一般に普及し、インターネットにより各パソコンがつながり、スマートフォンの登場でネットにいつでもアクセスできるようになった。つまり、今までは紙に印刷された出版物を経由してしかアクセスできなかった各種情報が、いつでも手軽に入手できるようになったのだ」


 アメリカのIT起業家の自伝本がわざとらしい咳払いとともに、

「ま、全て私のおかげだな」。


 店内の空気が、一瞬にしてしらける。


 かまわず続ける社会学者の新書。

「このインターネットが、本の売り手側にも深刻な影響を与えている。インターネットにより、『電子書籍』という全く新しい本の形態ができのだ。これが意味するところがわかるか?」


 新書と目が合ってしまったギャル向けファッション誌、首を傾げて。

「スマホで本が読めるってやつでしょ?」


 インターネット革命について論ずるアメリカの大学教授の書が、さらに詳細な説明。

「そもそも本を読む目的以外でも、現代人は、みないつでもスマホを見ている。YouTubeにinstagram、twitter、さらにネットのニュース記事やブログだって何でもスマホだ。彼らは、我々書籍から見て『可処分時間を奪う最大のライバル』なのだ」


「エンタメの群雄割拠による戦国時代というわけだな。まさに下克上ぉお!」

 歴史小説が、熱い叫びを放つ。隣にいた官能小説が、その熱さと声量に耐えかねて少し距離をとる。


 新書がその勢いを引き継いで続ける。

「その通り! その上で、あえて言う。大手の出版社は、書店を捨てにかかっている!」

「なんですと!」

 歴史小説の声もさらに勢いを増す。隣にいた官能小説が、バサッ、バサッ、とページを使ってあおぎ始める。


「電子書籍は、出版業界において、作り手と売り手の利益相反を生み出すのだ! 

出版社から見ると、本屋で紙の書籍を売るよりも電子書籍で売った方が良いのだ! 古書店に流れたりネットで売買されて新刊本の売り上げを押し下げることなく、在庫の心配もしなくていいのだから。

 実際、電子書籍の事業を持つ大手出版社は、すでに電子書籍の売り上げを伸ばし、儲けることができている。

 しかし、書店と取次ぎは電子書籍を望んでいない。自分たちの収益があがらなくなるからな」


 海外の経済学者の翻訳本が追随する。

「電子書籍化が進めば取次ぎ、書店は当然つぶれる。そして、書籍の販売は、デジタルな情報の売買としてのプラットフォームビジネスの形に移行するだろう」


 デジタル情報の対極にある「本」たちは、書店と命運をともにすることを運命づけられているという事実に、やっと皆が気づいた。


「あれ? え? そ、そうなったら僕たち、どうなるの?」――ジュブナイル・ミステリーが不安げに問う。

「私たち、消えちゃうの?」――ファンタジー文学が心細げな声を出す。


 しーん。店内を静寂が満たす。


 やがて、一冊の少年漫画がぽつりと呟く。

「僕たちの居場所をつくることを本気で考えないと」



■内容について(注)

上記内容については、作者の独断と偏見に基づいて、本たちの意見として書いています。実際に出版社が電子書籍を望んでいるかどうかは、作者は存じません。

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