第4話 どんな情報に価値があるんですか?

 ゴルフ雑誌による「そこまで」の声で、一旦キャットファイトが止む。おじさんの貫禄が女性たちの荒ぶる闘争心をなだめる。


「あのさー、オタクたち、本としてのプライドはないの? 僕達の本質は『情報』でしょ? 本屋さんって情報を売っているんじゃないの?」

 技術書が、オタク特有の甲高い声で、付録本たちに説教を始める。

「僕達みたいに、いつの時代も必要とされる定番の知識を詰め込み、ひいては技術大国である日本の産業に寄与する存在こそが……」


 そこへ文芸書が反論。

「いやいや、君たちのような実利主義を推し進める輩が、読書という行為の本質を……」


 さらに割って入ったのは、青年向けコミック雑誌。

「いや、読書の楽しみを奪ったのは、まさに君達のような『読書は高尚でなければ』、『役立つものでなければ』、といった考え方そのものだよ。読書は自由で楽しいものであるべきなんだ!」

 普段、蔑まれがちなコミックの棚全体が沸き立つ。

「そーだ、そーだ!」

「僕達だって、Cool Japan戦略を通じて日本経済に貢献している!」

 ライトノベルからコミカライズされた一冊の漫画が叫ぶ。


「究極的に役立つのは、人の運命を予言し、人に導きを与える……」

 レジの横から飛び出す占い本の声をさえぎる「黙れ! ペテン師!」の声。

「何ですってぇ! 今言ったの誰よっ!?」


「人を助けることに価値があるなら我々医学書が最も……」

「そういう即物的な考えが、人々の心を堕落させ……」


 女性誌同士のキャットファイトどころか、店全体の暴動になりそうな険悪な雰囲気に。


「待て! 待て! 落ち着け! みんなっ! みんな価値はある! 価値はあるんだ! どの本にもっ!

 ただ、価値があるからと言って売れるとは限らない。そこが問題点だ。そこを見誤るな!」


 ぴたりと論争が止む。みな、自分の尊厳が守られたことに納得し、口を閉じ、発言者=わかりやすい解説で人気のシニア向けの投資商品解説本に視線を注ぐ。


「考えてみよう。本を買う人の金銭感覚とお財布事情を」

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