第7話 after end...(3)

「よお」



まだ新しめの病院に着くとベッドの上で退屈そうに外を眺める剛大が居た。どうやら命に別条はなさそうだ。



「さっき、キャプテン達が来たよ。これ置いてったから食おうぜ。」



まるで他人事のように笑っている剛大の横には高そうなメロンなどが入っているフルーツのバケットが台の上に置かれていた。



そんな何も気にしていないような剛大の姿を見て胸がズキリと痛んだ。



「大丈夫なのかよ」



隼人の言葉には怒りの感情が含まれていた。その事に剛大は気づいていないのか気づいてあえて無視しているのか変わらず話す。



「上半身は何ともないな、下はこの通りだよ。」



勢いよく剥がされた布団から出てきたのは包帯にぐるぐる巻きにされ、完全に固定されていた両足だった。



「まさか両足とはな…先生もまだ片足だけなら完治後の影響は少なかったってさ。」



「おい」



「いやぁ、後ろから急に車が突っ込んできたときは死んじゃうかと」



「おい!」



隼人が我慢できずに語気を荒げる。そんな隼人を剛大は黙って見ていた。



「やめろよ、昨日勝ってこれから大会に向けて調子上げてこうって時に」



「隼人」僕は隼人を鎮めるために背中に手を置くことしかできなかった。



「氷太も来てくれてありがとな。ごめんな。」



その言葉に胸の痛みは増した。



「…ってなんだよ」



「え」



「ごめんってなんだよ!それは昨日聞いたし、なんで剛大が謝んだよ!お前が今考えなくちゃいけないのは自分の事だろ!」



「ごめん。」その言葉に僕はもう何も言えなかった…



「さっきキャプテンが明日から1軍のメンバーを変えるって言ってたよ。昨日の試合見てる限り二人とも良い線行ってると思うから頑張れよ。」



「そんなのまだ分からないよ…」



僕の言葉を境にそこから沈黙の時間となった。立ちっぱなしの僕らを見て剛大が椅子に座ることを促したが隼人はそれを断った。



「俺はただ宮川の状態確認しに来ただけだからもう帰る、見舞いの品、何もなくて悪いけどよ。」



「そんなの要らねーよ、じゃあ気をつけて帰れよ。」



「おう、氷太はどうすんだ」



「僕は…もう少し居るよ」



「そっか、じゃあな」



「連れて来てくれてありがとう」



僕の言葉に首だけ動かして隼人は病室を出ていった。とりあえず剛大に近づいた。



「痛む?」



「いや、動かすと痛いけど自分で動かせないし今は全然平気。」



「動かせない?」



「骨折だけじゃないみたいで、先生がなんか言ってたけど忘れちゃった。」



それって…もしかして



「それ大丈夫じゃない、いつかは治るの?ホッケーは?」



「分からない、けどまずは骨折を直さないと何も始まらないって先生が」



「そう…なんだ。」



「なあ、氷太。氷太は昨日の試合楽しかったか?」



「え、なに急に」



「まぁまぁ、で楽しかったか?」



「うん、最近は全然ホッケーが楽しく無かったけど昨日は楽しかった。」



「そ~か、俺も試合出たかったな~」



剛大は窓から空を見上げた。それにつられて僕も外を見た。



「なあ」



呼ばれて気づいた。剛大の声は…震えていた。



「やっぱり…ホッケーは試合が楽しいよな…」



「剛大」



「あと少しで1軍に上がってから最初の公式戦だったのに…くそぉ」



剛大の顔は見えなかったけれど、想像は容易にできた。



「まだ、あるよ。」



「え」



「まだ試合はあるよ、今回の試合もこれからの試合も勝ち続けてさえいれば試合はできるよ。剛大を待ってるから、僕は、いやバッカスのみんなが待ってる。一緒にリンクでまたコンビを組むんだ。だから、早くそんなの治して戻ってきて。」



「なんだよ、それ」



こちらを振り返った剛大の目には涙が溜まっていたが、顔は笑っていた。



「じゃあ、氷太はまず1軍に上がんなきゃな。」



「うっ、すぐ上がる。もう剛大の陰に隠れる僕じゃない」



「そうか、じゃあまた一緒にプレイできるように俺も頑張らなきゃな」



「うん」



そう言って2人して拳を合わせた。窓からは夕日が眩しい程差し込んできた。



病室を出る際、剛大に後ろで「頑張れよ」とだけ言われた。僕は片腕を上げて病院を後にした。

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