第7話 after end...

第7話 after end...(1)

「お疲れ様」



防具から着替え終わり、リンクの外へ行くとベンチに腰を掛けた柚希さんがいた。



「ありがとうございます、柚希さんもお疲れ様です。」



「ふふ、いい試合でしたね。」



「もうヘトヘトです。」



そんな他愛もない会話をしながら柚希さんが隣に座ることを促すように横にずれた。僕はそれに従うように座る。



「ブラックバッツは試合後のミーティング、無いんですか?」



「それはこっちも同じセリフですよ。」



「僕たちはもう終わりました。」



と言っても僕たちのチームは試合後、勝利の祝賀会のように浮かれたまま、みんなで盛り上がってすぐに終わったのでミーティングとは言えなかったが…



「私たちは今もミーティングしてますけどマネージャーはする事がなかったので抜けてきちゃった。」



ニヘラと少し抜けた笑顔を向けられ僕はもう惹かれまくって、彼女の顔をガン見してしまった。



「あの、さすがにそんなに直視されると恥ずかしい…」



「あ、ごめんなさい!」



すぐさま顔を伏せたけど、多分顔は真っ赤だった事だろう。そっと横を向くと柚希さんも顔を逸らしていた。話題を探して思考をフル回転して共通の知り合いの話をする事にした。



「そういえば、狐爪さんは?」



「あ~、キャプテンは多分帰っちゃった、あの人自由だから」



「へ、へぇ」



その言葉を聞いて改めて確認する、あれだけ強くても僕たちと同じように正規メンバーでは無かったんだ。



「氷太くん、キャプテンと昔から知り合いだったりする?」



「え、いや。一方的に知ってただけだと思います。」



「ふ~ん」



「なんでですか?」



「え~と、って氷太くん、敬語」



「え」



「私たち同い年だし、敬語は嫌だなぁ。なんか距離を感じるし…」



え、そうなの?でもいきなりタメ口も慣れ慣れしいと思われないですか。



「分かり、分かった。」



「うん!」



ニコっとした笑顔がまた向けられる。よく笑う子だな。かわいい。



「柚希さんは、」



「むっ」



彼女は名前の敬称に反応したのか膨れる、表情コロコロ変わるな、かわいい。けどそれって少し僕にはハードル高いよぉ…



「ゆ、柚希はなんでアイスホッケーの世界に?」



敬称を取った呼び方に満足したのかまた笑った彼女。かわいい。



「不純な動機でも引かない?」



「り、理由に寄るかな」



「え~」と言いながら彼女は話してくれた。そんなひどい理由なのか、と警戒したがそんな事はなかった。



「私、男の子がぶつかり合って戦う姿を初めて見た時ときめいちゃって、なんてかっこいいスポーツなんだろうって。だからホッケー選手が好きなの。」



「なんだ、そんな不純な動機でもないじゃん。」



「そう?」



「うん」



もし仮に彼氏がホッケー選手で何て言われたら僕は泣く自信がある。告白する前に振られちゃうところだった。しかも、ホッケー選手が好きってことは脈がある!



「あ、あれ」



柚希が急に指さした方を見ると少し遠くに二人の影が見えた。一つの方の影に見覚えがあった。



「あれって、隼人?」



「そっちは分からないけど、もう片方は剛君だ。」



「剛君!?」



「うん、今日、ううん、ブラックバッツの“エース 独島どくじまごう”君」



「独島剛…」



今日僕たちのチームにとって強敵であった剛君が隼人と何か話している。



「何を話してるんだろう。」



「なんだろうね、でも剛君今日の試合楽しそうだったから、その隼人君ってこのことが気に入ったのかも!もしかしたらバッカス自体も。」



彼女の言葉に少し違和感を覚えた。



「楽しそうっていつもは違うの?」



「うん、いつもは淡々としてるんだよね」



「そうなんだ」



なんとなく剛君の心中が気になった、あんなにうまいならホッケーが好きで楽しいのかと思っていたけれど…そう思いながら勝手に自分と対局な存在なのかと思っていた自分に気づいた。



「あ、戻ってきた。」



二人の様子を見ていて柚希が手を振る。剛君は手を振り返し、どこかへ行ってしまった。逆にこちらに気づいた隼人は近づいてきた。



「氷太、と彼女さん」



「ばっ、だから違うって」



すぐに柚希に弁解しようとしたが柚希はケロッと「違うよ」と言った。その後に「ただの友達」と付け足した。うん、そうなんだけどね、いえ、別に気にしてませんよ?



「そうなんだ、ま、氷太に彼女は無理だよな」



「は?何言ってんの?」



「だって氷太性格悪いし」



「誰の性格が悪いって!」



そう言いながら隼人を小突く。そんな様子を見て柚希は笑っていた。かわいい



「何を話してたんだよ」隼人が僕たちに聞いてきたが僕らは逆に隼人たちの話が気になっていた。



「そっちこそ、何を話してたんだよ。」



「う~ん、なんかよくわからない宣言された。試合の最後の方で呼び出されて」



試合終了の少し前、確かに隼人と剛君は何か話していたことを思い出した。



「何て言われたの?」



柚希が興味津々といった風に聞いた。



「なんか、ライバルに入れてやる!って言われて好きなNHLナショナルアイスホッケーリーグの選手とかいろいろ聞かれた。」



「なんだそれ」



僕は少し剛君の印象が変わった感じがした。ちょっと子供っぽい。



「多分友達になりたいんだと思うよ」



柚希が何かを感じたのかアドバイスした。



「そうなのかな~、なんか俺的には宣戦布告的に聞こえた。」



「不器用なんだよ、ごめんね。」



柚希はそういうとクスクス笑った。かわいい



「ま、また会った時話してみるよ。で、氷太この後は暇?」



「え?まぁ空いてるけど…」



チラッと柚希を確認する。すると彼女と目が合って



「私もそろそろ戻るね。」



「そっか、じゃあまたね。」



「うん、またね。」



そこで彼女と別れ、隼人と二人になる。柚希が出入口へ消えると、入れ違いでまだ直接は顔を合わせていなかった剛大が出てきた。



「おう、宮川」それに気づいて隼人が声をかける。剛大がこちらに寄ってきた。



「お疲れ様」「来てたんだな」そんな剛大と隼人の会話が続き、剛大と目が合う。



「氷太もお疲れ、いい試合だった。」



「うん、ありがとう。」



「「…」」



そして沈黙が流れた。



「ま、立ち話なんだし飲み行こうぜ!」隼人が横槍を入れたが、多分これに拒否権はないだろう。僕は剛大と話すいい機会だと思った。



「まぁ」「行くか」僕の曖昧な返事に剛大が続いた、まだ距離感が掴めないまま、帰り道近くにあるチェーンの居酒屋に入った。

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