第6話 awakening(4)
試合を再開する為にフェイスオフの陣形へセットする。
「よっ」隣り合う前線の隼人の横へ今まで出場していなかった剛君が並ぶ。やはり彼は出場してきた。
「おう、やっと出てきたかよ」隼人も答え、そこから少し会話していたが周りも盛り上がっていた為それを聞き取ることはできなかった。
僕は二人の会話から視線を外し、集中する。多分、この試合は僕にとっても大きなターニングポイントになるだろう思った。
審判のホイッスルで会場が鎮まる…心地の良い緊張が走り、パックが今…落ちた。
最初のパックは相手に渡った。残り時間も少ないためか先程とは違い相手の選手全員が攻めあがってきた。それを守り、こちらが反撃するといった一進一退の均衡した戦いが続いていく中、僕は時間の経過が進むにつれ少しの焦燥感に駆られていった。
剛君の攻撃に毎回注意、警戒を怠ることはなかったが、相手は剛君だけではなく全員がトッププレイヤーと言えるぐらいにうまい。だからこそ、気を緩めることは絶対にできなかった。
「氷太!」騒がしい会場の中で僕を呼ぶ声が鮮明に耳に入ってきた。一瞬で声の主が誰か分かった。間違えるわけがない、腐れ縁の声だ。僕は無言で手を上げる。目は試合の流れから離すことはなった。だが、声のおかげで追い詰められていた感情は少し落ち着いた。
その瞬間、相手の
僕は勝負に出た。後衛の僕が今上がれば、隼人が交わされている今、僕たちのゴールまで“ごうくん”はノーマークのフリーとなってしまう。しかし、ここで僕が取れれば相手への奇襲となる、勝敗の分かれ目は多分ここだ。
僕が飛び出すのを確認した柳沢先輩は前衛を下げるところを上げた。何も言わずに分かってくれる柳沢先輩はやはり頼りがいのある先輩だ。
相手の
あとは僕が届くかどうかで決まる。もう足がもげてもいい、それが仮初めのモノでも、ここで取るのがキャプテンなんだ!
僕はパックへ飛び込んだ。
「ああああああ!」
しかし、伸ばしたスティックはパックをかすめ、コースを変えて僕を通過していった。
「くそぉ…」口から嗚咽にも似た声が漏れる。
僕の後ろには僕がずらした軌道上に修正した剛君の姿が見えた。それを見てから僕は飛び込んだ勢いのまま壁に激突した。僕の目の前は真っ暗になる。
「まだだ!」ひときわ大きな声が聞こえ、すぐに目が覚める。顔を戻すと隼人が剛君とパックの間に乱入する。
「なんで!?」驚く剛君の声も聞こえた。
「うちのキャプテンをなめんじゃねぇ!」
そう言って、パックを手中に収めた隼人は反対側を走る柳沢先輩へパスを出す。それを見て僕は立ち上がり走り出す。そうだ、さっき、最後まであきらめないと決めたばかりじゃないか。
これがラストチャンス、残る壁はゴールキーパー1人だけだった。
「へい!」
僕がパスを要求したが柳沢先輩はパスを出してはくれなかった。なぜなら
「止める」
僕の後ろには物凄い速さで追いついてきた剛君が居た。僕はそのことに恐怖を感じる。だってさっき相手の最前線、僕たちの一番後衛の場所にいたはずなのに…
僕はそこでスピードを落とした、そのまま彼は僕を通過し柳沢先輩へと迫った。このままでは多分止められる。なら僕がすることは…
「ここだあ!」
僕は、柳沢先輩たちの少し後ろに移動した。それを確認した柳沢先輩はスティックの湾曲した部分の背中側でパックを後ろへ流した。
柳沢先輩を追いかけていた剛君はパックからどんどん離れていく。
僕は流れてきたパックを大きくゴルフのスウィングのように天高く振り上げ、弧を描きながら、力強く氷ごとパックを叩いた。
バチンッ!と音と共に放たれたパックが真っ直ぐ相手のゴールへと向かう。
柳沢先輩からすぐに切り返し、戻ってきた彼が飛んでいくパックに手を伸ばすが、触れることはなく通過した。そしてキーパーの左肩を通過し、ネットに突き刺さった。
それを確認してから僕は無心で腕を上げた。その後ブザーとホイッスルが同時に鳴った…
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