第5話 Feelings to waver
第5話 Feelings to waver(1)
行こうか迷った…今の氷太にどう接していいか分からないんだ。
最近の氷太はホッケーに対し不誠実になって、見ていて辛かった。こんな事今まで一度も無かった。プレイしている時も全然笑わなくなった。
小学校の頃は誰よりもホッケーを楽しんでいて俺は楽しそうな氷太とホッケーをするのが好きだった。だからずっと続けられた。でも、いつも追いかけていた奴を後ろに感じたときの接し方が分からない。
なんで来たんだろう…会場に着いた時にはもう、第1ピリオド終了間際だった。試合は1―1というスコアで良い試合なのかと選手たちを見ると試合は均衡には見えず、バッカスが押しているように見えた。
だが、そう思った時にブラックバッツの選手が一人飛び出した。あんなのすぐに止められてカウンターを食らって失点モノだ。
(なんだ…余裕そうじゃん)
そう思って、席を探そうと目を離したときに会場が静まり返った。
急な変化に驚きつつも、選手たちに目をやるとその光景を疑うしかなかった。
先ほど飛び出した選手がうちの選手4人を抜き去っていたのだ、更に突き進むそいつに隼人が後ろ手に食らいついている。
だが、抵抗空しく相手はGKをフェイントを入れながらうまく巻くとがら空きのゴールへパックを優しく流し込んだ。
「危ない!」
そう声が出たが、そんな警鐘が届くわけもなく隼人は流れるパックに飛び込んでゴールに突っ込んだ。
まるで衝撃的な映画でも見せつけられたような気分だった。
抜き去られ戦意が消えかける5人の選手と、その前に佇む1人の選手、そのまま相手の選手はおどけるかのようなそぶりを見せながら自陣のベンチへと帰っていった。
あいつはやばいな、次の大会では要注意人物だ。今日見に来てよかったかも…
そこで第一ピリオド終了のブザーが鳴った。そういえば、キャプテンたちは見に来てるんだろうか。辺りを見回してみるとキャプテンと輝さんらしき人を見つけた。
うちのチームジャージは黒に薄く青いラインが入っているので、固まっていると見つけやすい。
だけど二人と話してるうちのチームではない人もいた、よく顔が見えない…。とりあえず挨拶に行かないと。
そう思ってキャプテンたちの元へ赴いた。なかなか話が盛り上がっているようで近づくにつれ、声が鮮明に聞こえてきた。
「なぁ、お前のチームに咲場ってやついる?」
俺はその言葉に体が固まった、なんで先輩たちは氷太の話を?話しかけてもいいが、続きを聞こうと少し物陰に隠れ聞き耳を立てる。
「あ?いるよ。今日キャプテンやってる、なに?なんか迷惑でもかけたか」
「いや、そうじゃないんだけど…そいつってどこ出身?」
氷太がキャプテンやってるのか!確かにあいつは昔から試合の流れや、周りの状況をよく見てるやつだったし適任かもな。
それにしても氷太の出身?大学の前での話か?じゃあ今キャプテンと話しているのもどっかの選手なのか?顔を見ようと、物陰から顔を出して相手の顔を盗み見て確認する。
「!?」
あ、あの人は!?
「ん~、俺らと同じ北海道だったかな」
「やっぱりか」
「なに?」
「いや、何でもない。楽しみが増えたって感じかな」
「なんだそりゃ」
キャプテンは苦笑した。俺はそのまま物陰から出ると、キャプテン達に声をかけた。
「おはようございます」
「お!おはよう、来たのか」
「物好きだな」
輝さんは俺を見て笑いながら言った、俺もそう思います。
「ん?だれだ?」
キャプテンの横に座る人、
「うちのチームメイトだ、お前らの剛くん的な存在」
キャプテンがよく分からない紹介をしてくれた。誰だ、ごうくんって。
「おお!隠し玉か!なんだよ、出てくれないのか~」
でも、狐爪さんには伝わっているようだ。隠し玉って…
「どうも宮川剛大です。狐爪さんですよね。」
「そうそう、あれどっかで会ったことある?」
「あ、高校の時に戦ったことが…」
「まじか!ごめん、全然覚えてないや」
顔の前で両手を合わせて謝辞を述べられた。が、少しムカッとした。
覚えてないということは眼中になかったという事に他ならない、なんか悔しいな。そんな思いを胸中に秘めながらも俺は感情を笑ってごまかすしかなかった。
「それで、“ごうくん”って誰ですか?」
先のキャプテンからの紹介に登場した名前。狐爪さんは隠し玉とかって言ってたけど…
「こいつが連れてきた厄介な新人君だよ、さっきうちの奴らを蹴散らしてくれた奴」
キャプテンが心底嫌そうな顔をしながら握った手から親指を伸ばし狐爪さんに向けた。
狐爪さんは「どうもどうも」とか言いながら笑っていた。さっきの要注意人物は“ごうくん”というらしい。
それからはキャプテン達の後ろに腰を下ろし試合を眺めていた。
さっきは少ししか見れなかったので、第2ピリオドはゆっくり見れそうだ。とりあえず“ごうくん”を警戒しておこう。
フェイスオフ後パックを取ったのは氷太だ。久しぶりに氷太のホッケーを見る、ってか相手の陣形えらく消極的…というか防御陣形だな。
あれじゃ攻めあがるのが1人、“ごうくん”だけだ。如何に1人が強くても1人だけじゃ体力が、
「あいつ、バカなんだけどさ。ホッケーのセンスはずば抜けてて横に人がいると動きが制限されるとか言って個人プレイしたがるんだよ。こっちとしてはチーム競技なんだからふざけんなって感じだけど、一緒にプレイしてたらなんか、みんな納得しちゃってさ」
狐爪さんがぽつりぽつりと話し始めた。
「急になんだよ」
輝さんが少しいらだったように返事する。「自慢か?」と少し威嚇してもいる。
「違う違う、だから俺たちはあいつの個人プレイを容認してるんだ。こいつなら任せられるって」
パチンっという音が響き氷上に視線を戻すと彼が柳沢先輩と幹人の間を流れるパックをカットした。
「戻れえええ!」
氷太の声が響き、一斉に走り出す。強い…隼人が横から妨害して体を当て続けているが崩れる様子はない。
だが、横で隼人が壁際に抑えて唯一の行き先は氷太が塞いでいるためもう道がない。これは止められる。
しかし、“ごうくん”は減速して隼人と一瞬ずれる。それを戻そうとした隼人がスピードを落とした瞬間再加速して隼人を抜いた。だが、その先には氷太が
「え」
俺はあまりの出来事に声が漏れてしまった。“ごうくん”は目の前の氷太の頭上にパックを跳ね上げさせ、パックを放った。
あれはプロの試合でも難しいとされる技で、相手には急にパックが消えたように見えるのだ。意表を突かれた氷太は一瞬固まり、隼人が抜かれて、できた隙間から抜かれた。
そのまま“ごうくん”は文也すらスピードで抜き去りシュートした。キーパーが反応し、そのパックをブロックし弾いた。
「ナイスキー!」
目の前でキャプテンが声援を送ったが、氷上では”ごうくん”が弾かれたパックを押し込んだ。
基本アイスホッケーは1発で決まる確率は低めだ、だからこそ、2打3打零れたパックを押し込む事が重要だ。
これは『リバウンド』という行為であり、普通は1番手ではなく2番手の選手が行うものだが、それすらも一人でやってしまう“ごうくん”には感嘆した。
もうこれはプロ並みだ。しかし直後バチンッという音が響き、ゴールネットに向かっていたパックは弾かれた。
そこにはまさに一刀両断、振り降ろされたスティックを持つ隼人が立っていた。
会場が一気に盛り上がり歓声が鳴りやまない。それに準じ士気が下がりつつあったバッカスのベンチも盛り上がる。
「はっはっは、まじかあいつ!かっこいいな!」
キャプテンは興奮気味に笑っている。横の輝先輩は何も言わなかったが目は試合に…隼人にくぎ付けだ。
「ちょっと大輝!何!?あの子めっちゃすごいじゃん!」
狐爪さんすら隼人に興味津々だった。でも確かに今のプレイはマネしようにも、できるものではないし評価されるのは仕方のない事だ。現に俺も興奮気味だ。
「飯田、次の大会使えそうだな。」
輝さんがキャプテンに向かいボソッと呟いた。俺はすぐ後ろにいたため、聞こえてしまったがあまり聞かない方がいいだろうと少し耳を遠ざけ、周りを見渡した。
「ねえ、剛大君てさ。」
そんな俺に狐爪さんは話しかけてきた。
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