第5話 Feelings to waver(2)
「剛大君てさ、自分のチームにライバルっている?やっぱり
俺はどんな顔をしていたのだろう。話を振ったあと狐爪さんは、俺の顔を見て少し苦笑いを浮かべていた。ライバル…それは
「チームメイトのみんなライバルだと思ってますよ。狐爪さんはいるんですか」
少し語尾に苛立ちのような意味を含んでしまった言い方になってしまった事に自分で自分に驚いた。なんで俺はこんな心がざわついているんだ。
「じゃあいつかは大輝や輝も喰う気でいるわけだ」
「あ?」「ほ~」輝さんとキャプテンが同時に俺を見た、ってか睨んだ。慌てて訂正を入れる。
「ちがっ」
「違うの?」冷静に、目の奥を覗き込むような視線で狐爪さんはもう一度問いてくる。
「…いつかは勝つ気でいますよ。」
俺は狐爪さんの何とも言えぬ雰囲気に圧倒され、正直に答えた。この人苦手だ。
「まだ無理だな」輝さんが嘲笑って立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「トイレだよ」
「じゃあ俺も」
キャプテンも立ち上がり、一旦2人が席を外す。少し2人が離れると狐爪さんはまた話しかけてきた。
「剛大君、さっきの質問さ」
「なんですか」
「君の今の実力は分からないけれど、剛には今ライバルがいないんだ。うちのチームも弱いわけじゃないけど、それほど実力が上なんだ。あいつ留学してたんだけど、ホッケーの本場、アメリカでプレイしてたんだ。まぁそれだからうまいってわけではないだろうけどさ、だから今日はよかったよ、バッカスとの試合楽しみにしてたんだ。そしたらさっきの子みたいな子が…剛が今度の大会、本気で戦えるような要因がいてくれて良かった。」
一体、何の話をしてるんだ。それで俺の話とどう繋がるんだ。そんな疑問が顔に出てたのか狐爪さんは笑って言った。
「君と咲場氷太くん、君たちの事憶えてるよ。俺が高校3年の時のインターハイ決勝、2個下にコンビプレーで活躍する2人がいるって噂も一緒に。」
俺は驚愕と共に畏怖を感じた。この人は…
「あの時の君たちがバッカスにいるって聞いた時、剛に取っていいチャンスだと思った。もちろん俺もだけど、君たちなら、剛にいい刺激を与えてくれるんじゃないかって思って。結果的には少し違う感じになったけど、いい収穫だったよ。」
そういうと狐爪さんは立ち上がった。その瞬間、得点を知らせるブザーが鳴った。目を向けるとブラックバッツが得点していた。ゴール脇には肩を落とし、落胆している氷太の姿があった。
「君の相方くん、えらくプレイが雑だ。前のキレがなくなってるし、何よりあまりあの時から成長してない。君は彼のあの姿を見て何も思わないのかい?」
その一言は俺の感情を大きく乱した。何も思わないわけがない。なんなんだこいつは!
氷太が少し変だってことは気づいてたし、何とかしてやりたいとも思ってた。でもそんなのこっちの都合を押し付けてるだけだ!だから俺がプレイで引っ張って焚きつければついてくるって思って行動してたらそれをきっかけに喧嘩もした。
そんな苦悩すら知らないのにこいつは勝手に色々言いやがって…
「恭介、あんまうちの後輩いじめんなよ」
急に肩に手を添えられ、キャプテンが狐爪さんに言った。
「いじめたつもりはないよ、俺はこれで帰るわ。次は大会で会おう」
「ま、上で待っててやるよ」
「ほざけ、待ってるのは俺たちだ。」
2人はお互い軽口を叩き合い、別れた。俺はうつむいたまま顔が上げられなかった。なぜか目頭は熱くなり、目元に力を入れていないと何かが漏れ出しそうだった。
「ま、お前も色々悩みがあるだろうし、咲場が今腐ってるのも知ってる。だけどここは実力がモノを言う世界だ。だからあいつが腐り終わって、また立ち上がるのを俺らは待つしかないんだ。それに、お前は人に気を使う前に自分が飯田に負けないようにしないとな」
ニカッと屈託のない笑みをキャプテンは俺に向けてくれた。そして続けて言った。
「チームのメンバーを支えたり、面倒見るのは俺ら幹部でいいんだよ」
その言葉を聞いて、俺はただただ声を殺して俯くことしかできなかった。しばらくすると第2ピリオドの終了を告げるブザーが鳴った。
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