第3話 What dou you think?(4)
点を決めた選手を称えようと視線をやるとちょうどチームメイトに囲まれているところだった。みんなうれしいのか先に点を決められて悔しいのかその子を叩きまくっていた。
あ、思い出した。さっき僕の顔を
叩かれている枝葉君は点を決めて嬉しいのか叩かれて嬉しいのかニコニコだった。前者の方であってほしい…
声をかけるのは後でいいか、そう思いながらもう一人の主役を探した。結構な量を走った先輩はへとへとに疲れていて、すぐにベンチに下がって交代していた。点を取った枝葉君が目立っているが、献身的にチームのために一番走って流れを作ったのはこの
「柳沢先輩、ありがとうございます。いい走りでした。」
「お前が立てた
「ふふ、そうですね、僕も目立たなきゃ」
「無理だな」
「ひどい!?」
「今回は、目の前に飛び込んできた大きなチャンスだ。みんなが目立つ様に動く。そこで目立つのは難しいんだ」
柳沢先輩は熱い人だけど下の子の面倒見は良いので僕にアドバイスしてくれたらしい。
「肝に銘じておきます」
なんだかんだ言ってバッカスは過激な人も多いけどみんな優しい。だから僕はこのチームが存外気に入っていたりする。だからこそ柳沢先輩のようにチームのために、チームを勝たせるための行動を自分の事より優先できる先輩を僕はとても尊敬している。なら僕もこのチームに貢献できるプレイを模索し続けなければならない。
最近、自分の事ばかりで少しアイスホッケーに対して真摯に向き合えていなかったのかもしれない、と上を目指す仲間たちを見て思った。
試合はその後何事もなく消化されていき、第1ピリオドの残り時間は時計を確認すれば、後は2分だけだった。交代するとき、隼人がこちらに向かってきた。
「さっきはよくやったんじゃない?」
「僕は何もしてないけどね」
「謙遜するなよ、さっき枝葉君が先輩たちに言ってたぞ。得点できたのは氷太の作戦がうまくいったからだって」
「え」
予想もしていなかったことを言われ、間抜けな声が出てしまった。
「次は俺の番かな、もう1点
「あんまり無理しないでね」
「俺も守ってばっかじゃアピールにならないからな」
ニカッと隼人は笑って勇みよく出場していった。みんながそれぞれの思いを持ってこの練習試合に臨んでいる。じゃあ僕は一体、どんな思いを持ってこの試合をしているのだろう。
僕たちは少し疲れた体を休ませながら、次の作戦について話し合うが、隼人たち2セット目は僕たちの代わりに試合をしているのだ。チームなんだから応援しなくちゃ
「おっしゃ!流れはこっちにあるぞ!」「攻めるぞ!」
そんな盛り上がりの中、僕は相手が異様に静かなことに気づいた。なんだ、失点して落ち込んでるのか?改めて相手のベンチを見ても何か違和感が拭えない。
「あれ、そういえば相手のキャプテンマーク付けている選手、狐爪さんじゃない。」
アイスホッケーではキャプテンとアシスタントキャプテンにはそれぞれ目印として胸元にキャプテンはC、アシスタントキャプテンはAのマークの装着が義務付けられている。
ブラックバッツのキャプテンは狐爪さんだってことは柚希が彼の紹介をしてくれた時に教えてくれたし、ブラックバッツほど有名なチームのキャプテンの事を大学でアイスホッケーをしていて知らないはずがない。
「何してんだ咲場、相手のベンチなんか見て」
柳沢先輩が相手ベンチを凝視している僕を不審に思ったのか
「いや、そういえば相手のチームのキャプテンが狐爪さんじゃないって思って」
「そんなことか、そんなもん俺らも同じじゃないか、今うちのCマークを付けてるのはお前だろ?」
「確かに、じゃあ相手も」
「そりゃもう大会が近いんだ、相手もバカじゃなければベストメンバー出してくるわけないだろ。」
「でも、僕さっき試合の前に狐爪さんに会って」
「それなら上の観客席で見てるんだろ」
「なるほど」
まぁしっかり考えたら、いないって時点でそれが普通だ。そんなことを考えてるうちに試合は残り時間1分を切った。これは何事もなくインターバル、ピリオドとピリオドの間の休憩時間に入るだろう。
けれど現実はそんな甘くなかった、こちらの攻撃を防がれ、守備に移ろうとした瞬間に一人の選手がパックを保持しながら前進してきた。それはまるで矛を前に構え突進してくるかのように早く、ただ一直線に。
そんなものすぐに止められて反撃を食らいに行くようなものだ。これは相手が焦ったのだろうかと考えたが、僕の背中に嫌な予感が巡った。
「止めて!はやく!」
出場してる選手たちは逆襲できるチャンスだと考えたのか一斉に相手を止めにかかる。
だが、そいつはこちらの動きを予測しているかのように一人、また一人と抜き去って4人を抜いて独走していった。
唯一、隼人だけが体勢を崩したが、抜かれても食らいついて、ほんの少し後ろで妨害に入る。だが、その抵抗も空しくそいつはゴール前までたどり着くと
そこにまるで挑発するかのように打つのではなくまるで滑らすかのように優しくその選手はパックを流した。
「ああああああああああ」
隼人はそのパックを追いかけ、何とかゴールを割らせないようにと腕を伸ばしたがパックはゆっくりとゴールラインを超えた。
勢いを殺しきれなかった隼人はそのままゴールへと突っ込んでいった。こちらの自陣に残されたのはフィールド内の敵をすべて抜き去り、ただ立ち尽くす選手だけだった。
僕たちは声を出すことすら忘れ、何も言えず固まるしかなかった。絶句とはまさにこのことだろう。
沈黙が支配する会場内で得点を告げるブザーが非情に鳴り響いた。
「なんだ、こんなものか」
ヘルメットを脱ぎながらその選手は、ぽつりとつぶやいた。ゴールに突っ込んだ隼人は悔しそうにその選手を睨む。
「拍子抜けだな~」
そいつは、ブラックバッツのベンチに帰りながらまるで、おどけるかのように滑りながらため息をついた。そこで第1ピリオド終了のブザーが鳴り、僕たちは何も言い返すことができず、インターバルに入った。先ほどの光景が頭から離れず、ただただ誰も口を開くことはなかった。
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