第3話 What do you think?

第3話 What do you think?(1)

 口の中を清涼感のあるタブレットの味でいっぱいにしながら僕はぼーっと整列している。



目の前には屈強な男たちがこちらを見ながらひそひそと耳打ちしている。なんですか、何か付いてますか?



「これから試合を始めます!」



審判がお互い対面に整列している狭間で試合開始の合図を始める。



「君!その顔はどうしたの?」



審判が誰かに向かって注意をする。



(ふっ、バカだね。試合前に審判からの評価を下げるなんて。)



顔を見てやろうと顔を審判に向けるとなぜか目が合った。



「へ?」



「君だよ、君!その顔血だらけじゃないか!」



そんな事を審判に言われた。そんなの当たり前じゃないか、ここは冷静に答えよう。



「あ、大丈夫です。全部返り血なので」



「全然大丈夫じゃないだろう!?」



「大丈夫です!」元気よく答えれば許してくれるだろう



「チームメイトに聞いてみなさい!」



審判にそう言われたらしないと心証が下がっちゃう、とりあえず横にいる同期に聞いてみた。



「僕の顔そんなにひどい?」



「見るのもおぞましいくらいの不細工ブサイク



「違う!僕が聞きたいのは顔の評価じゃない!」



そんな不思議そうな顔で見ないでよ、後君の名前が思い出せない!



「とりあえずベンチで顔拭いて来なよ」



言われるがままベンチに戻ると倒れている隼人が目に入る。



「ちょっと…氷太…?」



「君は誰だい?多分起き上がると僕が殴っちゃうから寝てていいよ、できれば永眠をおすすめするよ」



「ひどい!ってかそれどっち選んでも助からないじゃん!」



こいつ何を能天気な顔をしてるんだ?僕はお前にファーストキスを奪われて悶絶していたっていうのに…



おかげでしばらく殴り続けてしまったじゃないか。とりあえず、早く顔を拭いて戻らなくちゃ。



顔を拭いて列に戻り、審判に一礼する、怪訝けげんな顔をしながら審判は渋々といった様子で今度こそ試合開始の合図をした。



 このまま双方のチームは自陣にへと別れお互いに円陣を組む。今回チームのキャプテンは隼人をボコボコにしてしまった罰?なのか僕が任命された。



「え~と、お騒がせしてすみませんでした、さっきまでの事は記憶から消してください。」



そんな事を言うとみんな笑ってくれた。優しい人たちが仲間でよかった。



「とりあえず、試合前の緊張はなくなったが試合前にふざけてたってことで今日負けたら咲場のせいだからな」



「負けたら咲場がみんなに飯奢るってことで」



ほんと、いい仲間たちだ!絶対負けられない!



「ほんと輝がここに居なくてよかったな、いたらこんな笑っていられねーぞ」



「へ、輝先輩なら上で見てるんじゃ…」



僕が観客席を見上げると周りは一斉に目を逸らした。え、なに?



(咲場死んだな)(ご愁傷様)(お別れだ)



不謹慎な呟きが横から流れてきているが僕の耳には入らない、なぜなら僕の目にはそんな言葉よりも恐ろしいものが映り込んだから、鬼が僕を見ているから…輝先輩が青筋立てながら睨んでいるから…まさに蛇に睨まれた蛙状態。横で大輝キャプテンがなだめているけど聞いてないみたい。



「ま、とりあえず氷太のおかげで緊張はほぐれたし、楽しんでやりましょう!」



「「おう!」」



いつの間にか戻った隼人が号令をかけ試合を再開した。憎らしいが今は感謝しておこう。



みんなベンチにへと戻り、1セット目に入っている5人はそのまま氷上に残り中央へとセットする。



アイスホッケーは5人の内3人がFWフォワード、2人がDFディフェンスと前衛後衛で分かれて戦う。



お互いの前衛が横一列に向かい合い、それぞれの後衛がその後ろに1列で並びあう形となる。



これが初期位置の陣形、だが戦術に合わせ陣形を変更するチームも存在する。僕たちは最初にこの初期陣形でセットした。相手も初期陣形だ。お互いにこの陣形のまま向かい合うことを『フェイスオフ』という。



「初めから攻めてけ!」「先制点取るぞ!」



そんな応援がベンチから飛んでくる、もちろん初めからそのつもりだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る