第3話 What do you think?(2)

 対立する2列の真ん中に審判が入る、真ん中で向かい合う両者が氷上の真ん中に描かれている半径4・5m、幅5㎝のサークルの中に入り中心点を開け、その中心点の両脇にスティックの先端を置く。



その空いた隙間に審判はパックを落とせるよう氷上とは平行に腕を伸ばしセットする。この瞬間一気に盛り上がっていた空気が豹変し、静寂が訪れる。僕はこの瞬間に一番緊張が走る、これでパックが落ちればいわゆるキックオフ、試合開始だ。



ピッ、審判がホイッスルを鳴らす。そしてパックが今“落ちた”ガチンッと両者のスティックがぶつかり合いパックが飛ぶ。最初にパックを取ったのは相手だ。相手のDFがパックを保持するとそのまま相手の前衛が散開し始めた。



「落ち着いて!一人ひとりをマーク!」



僕が声を上げ、指示を出す、さっきは隼人がまとめえたけど、今日のキャプテンは



 指示の通り先輩たちは相手の選手一人ずつにこちらの一人ずつがピッタリと張り付いていた。これが防御の戦術「マーク」だ。これで相手のDFはパスを出せない。



 これで相手の出方をうかがって対応するという基本的な防御陣形を僕たちは選択した。そして1対1という陣形なのだからパックを保持する選手にも一人こちらのFWが相対する。



「もらった!」



相対していた先輩がパックを奪取しようと詰め寄ると相手のDFは先輩を2回、パックを動かして、まるで普通に進んでいるかのように横を抜き去った。



「はあ!?」



先輩は、さぞ当然のように抜かれたことに驚きすぐに体を切り返して相手を追いかける。



だが、そのDFに追いつくことはなかった、僕は慌てふためきながらも自分が前に出るしかないと判断し、向かってくるDFに相対しようとしたがすぐに間違いに気づいた。



今まで僕がマークしていたFWが自由フリーだ。しかしすでに気づいたときには遅く、そのFWにパックがパスされてゴール前まで独走だった。



そのままシュートモーションに入り、打つ、こちらのゴールキーパーは反応が間に合わずそのままパックはこちらのゴールネットを揺らした。あっという間の出来事だった、また試合が始まって30秒と経っていない。



「「ウォォォォ!」」



相手のベンチから歓声が上がり得点した選手が仲間から叩かれている。



だが、僕たちのベンチは逆に静かだ。静かなベンチには目には見えない「なにか」が漂い出した。



「はいはい!切り替えましょう!」



ベンチから隼人が元気に笑いながら声を出し、みんなに明るい喝を入れる。そのまま隼人はベンチのドアを開け、僕たちと交代するかのように飛び出してきた。



「氷太、とりあえずいったん下がって反省と対策考えて、なんとか時間は稼ぐから」



「ありがとう」



隼人に促されるまま、それに従い、1セット目の全員がベンチに戻り、2セット目が出場した。ベンチでは早速反省会が開かれる。



「すまん、焦りすぎた。」



先ほど、真っ先に飛び出し抜かれてしまった先輩が、みんなに謝った。だけどそれは間違いだ。



「いえ、あれはすぐ対応できなかった僕の責任です、先輩の前に出て攻める姿勢はこれからも続けてほしいです。」



僕がそう言うと先輩は戸惑った表情をした。



「あ、ああ、分かった。」



アイスホッケーはエリアが分かれており、自陣であるDZディフェンディングゾーン、中間にあるNZニュートラルゾーン、敵陣にあるAZアタッキングゾーンの3つだ。



さっき相手のDF1人にすべてのエリアを突破されてしまったので何もこの先輩すべて悪いわけではない…



「今は陣形をしっかり崩されて失点しました。悔しいですが作戦負けです、なので対策を考えようと思います。」



僕が指示を始めると最初は反感を食らうかと思っていたが、意外にも先輩たちは素直に従ってくれるかのように頷いてくれた。



「相手の攻撃力はとにかく高いので守りに入ると多分押し負けます、なのでこちらもやることを絞って乱打戦を仕掛けようと思います。」



「乱打戦?それってどうやるんだ。」



1人の同期が質問してきた、僕はそれに笑みを浮かべながら答えてやった。



「とにかく“走る”んだよ」



「「う、うわぁ」」



なぜか1セット目のみんなが僕の顔を見てドン引きしていた。え、なんで?



「お前の今の顔最悪やわ」「悪魔みたいな顔してたな」



「嫌な笑み浮かべるところとか大輝にそっくりだな。」



そんなことを口々に言いだした先輩方を、僕は聞き流すかのように無視して、詳しい作戦をみんなに伝えた。

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