第1話 one step back(5)
朝、目覚ましの音で起きると頭がずきずきと痛んだ、二日酔いだ。
ふとスマホを見ると『LINK』に通知があった。瞬間、昨日の女性からの通知だと期待しすぐさまアプリを起動すると残念ながらそれは彼女からではなく、バッカスのチーム全体の通知であった。
内容は
『連絡 次の練習の時間枠を使い、練習試合を行うことにした。大会前であるためレギュラー陣をオフとし、レギュラー陣外を使った試合となります。』
そう記されていた、練習試合?この時期に?
これから大会が目前に迫っているというのに練習試合を取り入れるのはまた珍しい話だ。しかもレギュラー陣ではなく、僕たちの試合、なにか目的があるのか。そんな勘繰りをしながら内心は少し楽しみだった。
試合は大好きだ。あのわくわくドキドキ感は試合でしか味わうことのできない感情だ。あんなに嫌っていたアイスホッケーも試合となると楽しみが勝るのが不思議だ。
そんな期待をしながら僕は大学へと向かう準備をした。今日は何か良い事がありそうだ。朝ごはんの準備をしようと冷蔵庫を上げると
「あ」
残念なことに冷蔵庫にはお茶のペットボトルが一本入っていただけだった。最近外食ばかりで買い物に行っていなかった。
「コンビニでいいか」
本日幸先つまずきました、トホホ…
・・・
「最悪だ…」
僕は頭を抱えながら大学に設置されているベンチに座り込んでいた。
今日は朝からまるで呪われているのではないかと思われるほど散々な出来事に見舞われている。朝、大学へ向かう途中に寄ったコンビニでは、何もしていないのに呼び止められて万引きを疑われ身体検査までされた、大学につき教室へと向かう途中ではなぜか床が濡れており滑って転んだ。
講義が終わりお昼の時間に大学の中にある牛丼チェーン店に行けば、長蛇の列を待ち、注文して出てきた商品は注文した商品よりも安い牛丼だった、僕はそれに気づいてはいたけど後ろが詰まっており、早くどかなきゃという気持ちが先行し、泣き寝入りでただ余計なお金を払わされた。
そして先程、すれ違った学生が手にしていたコーヒーを落とし、僕の靴の上にべったりと零れた。その学生は謝罪して靴のクリーニング代を出すといわれたが、その謝る仕草が昨日の女性と重なって怒る気にはなれず、「大丈夫だよ」と断った。
まあ別に重なってなくても怒れないけど…もう今日は講義がないので帰れるのだが帰り道でまた何かが起きそうな予感がするのでなかなか動けずにいた。
今はだれか知り合いと出会いたかった。
あぁこんな時に限って頭をよぎるのは剛大の顔である。ふと、そのことをきっかけに剛大のことを考える、あの出来事から話すどころかまともに顔を向かい合わせていない。
練習中もちらっと横目で見ることはあっても近づかないし、僕が少し避けてしまっている。もし話す機会があったとしても何を話せばいいのか見当もつかない、明日の練習試合、レギュラーである剛大はオフとなるので多分会うことはないだろう。
このままじゃだめな事は頭では分かっていても心では未だに行動に移す気はないらしい。どこか全てが他人事だ。
その時ちょうど太陽が雲に隠れ、辺りが暗くなり、寒い風が通り過ぎって行った。
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