第8話 未知の中に既知有り

敵の奇襲攻撃を受け、少なからず負傷者が出た小隊は一度森から出る事にした。


狭い街道の上で車列が反転し、今度はオペルブリッツが先頭になって進み出した。


死体を調べて判明した事だが、小隊を襲撃した伏兵は全てエルフだった。


先頭のオペルブリッツが森を出てそれに続いて2両のハーフトラックとキューベルワーゲンが出てきた。


「…………」


レリエスはキューベルワーゲンの中で揺られながら顎に手を当て何かを考えていた。


「今度はどうされました?レリエス少尉」


「…私はあの戦闘の時、敵の声を聴いたんだ」


「はぁ……それで?」


「敵は確かに、私の分かる言語で喋っていた」


「断末魔に混じって助けてくれって、死にたくないって声が確かに聞き取れたんだ」


「まぁ、それに関しては原因はまだ分かっていませんがね」


この世界における謎は多いが、特に異質なのはそれぞれの話した言葉がこの世界では双方の理解出来る言語に勝手に訳されるという現象だ。


つまり、この世界に来た亜人同盟軍の兵士達は全員この世界の住民と会話が可能なのである。


余りにも非現実的で、"都合が良過ぎる"この現象の原因はまだ分かっていない。


それは無論、レリエス少尉にもその護衛の兵士にも皆目検討もつかなかった。


森を抜け、暫くの時間が経った。


先程の奇襲で負傷者も出ているので本格的な治療が必要だったので本来なら前哨基地に帰還するべきなのだろうが、レリエス少尉が「もう少し地図を描き上げておきたい」と言って負傷兵のみをオペルブリッツと1両のハーフトラックに押し込んで前哨基地に帰して測量班とまだ戦える兵士を連れてキューベルワーゲン1両とハーフトラック1両だけで作戦を続行した。


勿論これはレリエス少尉による独断なので後にレオーネ大佐から大目玉を食らわされたのは言うまでもない。


* *

現在、我が小隊は半数の戦力で未開の地を調査している。


未だ人工物は発見出来ていない。

出来れば村の1つでも見つけてそこの住民と話でも出来ればいいのだが……。


道無き道を行きながら止まっては測量、止まっては測量を繰り返し、地図は次第に完成してきている。


測量班がハーフトラックに戻って車両が進み出した時、レリエスは前方に何か人工物があるの事に気付いた。


「……あれは!」


キューベルワーゲンの助手席から立ち上がると、双眼鏡でその人工物を観察した。


「家だ……数はそれなりにあるな。 規模は村位か?」


家ノ数はおよそ30〜40軒はありそうだった。

ひとの姿はまだ確認できない。


「先程の奇襲もありますしあまり関わらない方が良いのでは?」


護衛の兵士が不安げに言うが、レリエス少尉の目は前方にある村を見据えていた。


「……いや、行こう。 幸いこちらはキューベルワーゲンとハーフトラックが1両しか無い。 住民を威圧し過ぎる事は無いだろう」


そう言ってレリエス少尉は無線で車列を前身するよう命じた。


村が完全に視認出来、且つ緊急時に何時でも突入できる距離まで近付くと、車列を止めさせ、レリエス少尉とその護衛を数名連れて村へ向かうことになった。


ラネルは村の外に残る事になり、ベルクトとシュレーグと他6名の兵士がレリエス少尉の護衛として徒歩で村へ向かった。


「思いの外大きな村だったな」


村の出入口と思しき門の前に近付くと、思ったよりかなりの数の家が建ち並んでいた。


「あまりコソコソせずに堂々と正面から行こう」


兵士達は銃の安全装置を掛けてストリングで肩から下げると、門を通ろうとした。


門の目と鼻の先まで近付いた時、村の中で遊んでいた子供達と目が合ってしまった。


「おじさん達だれ?」


こちらを視認するなり駆け寄ってきた子供達はこちらをまじまじと見つめている。


野戦服や防弾ヘルメット、そして銃が気になるのだろう。

子供達が真っ先に群がったのは先頭にいたレリエス少尉だった。


軍服のあちこちをベタベタと触られ、更には腰のホルスターに仕舞っていた豪華な彫刻の施されたナガンM1895までに手を出そうとした。


「おいよせ!あっおい!それに触るんじゃない!!」


弄ばれているレリエス少尉はベルクト達に「助けてくれ!」と目で訴えかけるが、護衛の兵士達は暖かい目でその様子を見守っていた。


騒ぎが大きくなると、不審に思ったのか村の中にある家からゾロゾロと人が出てきた。


騒ぎはどんどん大きくなり、遂にはベルクト達が村の住民に取り囲まれるにまで事態が発展した。


後で村人への事情説明に手間取ったのは言うまでもない。


* *

「ハッハッハ!それは災難でしたな!」


このマシルという村の村長が来たお陰で騒ぎは収まり、今は村長の家に案内されている。


「ええ、本当に」


レリエス少尉は疲れ切った表情でトボトボと村長の後ろを着いていっている。

村人達は道の脇に寄り、村長に案内されるレリエス少尉と8人の兵士を興味津々で見ていた。


「にしても、あなた方は見慣れない服装をしている。 それに亜人種まで引き連れているとは」


「今ここにいるゴブリン達の事ですか?」


どうやらこの世界でも亜人という存在はいるようだ。

ただ問題なのは、この世界にとって亜人がどんな存在なのかだ。


「やはり亜人は敵視されるのでしょうか?」


「そうですな。 ここ最近は亜人やら魔族やらとの戦争で周辺の国も大忙しとの事です」


その話を聞いて、レリエス少尉は何か引っ掛かる言葉があった。


「魔族、とは?」


そう聞くと、村長は足を止め、不思議そうに少し首を傾げると、ホッホッホと笑い出した。

左を見ると、既に村長の家の前に着いたようだ。


「いやすまんのぉ。 魔族を知らぬ者がいたとはな。 辺境の地に住むものでも知っとるよ」


「……"別世界"の民でも……ですか?」


レリエス少尉がそう呟くように言った。

すると、驚くべき速度でこちらを振り向いた村長は、レリエス少尉に歩み寄り、肩を掴んで捲し立て始めた。


「ま、まさかあなた方は王国が召喚したとされる四十勇者であるというのですか!?」


「…………え?」


そこにいた全員が、声にそのまま出したレリエス少尉を除いて心の中でハモった。







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硝煙の勇者達 COTOKITI @COTOKITI

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