第6話 鋼鉄の旅団

敵による亜人同盟軍の陣地攻撃より2日前、ルア大陸の南端の国、エルダース王国にある街、イレドのギルドにある情報が来た。


「八頭身のゴブリンだぁ? 見間違いだろ」


「ちげぇよ!ホントに見たんだって!」


ギルドの中で数人の冒険者が話していたのは、八頭身のゴブリンという"この世界"では有り得ない存在についてだった。


「ホントなんだって!そいつら全員同じ服装をしててな、陣地でも築いてるっぽかった!」


「八頭身に飽き足らず陣地まで作んのかよ。 そりゃますます有り得ねぇぞ」


長机で興奮気味に語る冒険者と向かい合う形で座っていた男は鼻で笑うと話し始めた。


「ゴブリンは知能が低い。 せいぜい山か洞窟の中に巣を作って群れる位の知恵しか持ち合わせていない」


「盗賊の集団と間違えたんじゃないかなぁ?」


話していた男の隣にいた人の良さそうなもう1人の男もその話をやんわりと否定した。


「そんなぁ……」


最初はこの男が空目しただけだと思われていた。

だが、次第にその話は真実味を帯びてきた。


複数の冒険者から全く同じ目撃情報が出たのだ。


更に、ゴブリンだけでなくエルフやドワーフ、オークにオーガまでいる事が明らかになった。


そして、謎のゴブリンが陣地を築いている事を重く見たギルドはその陣地の制圧クエストを出した。


報酬は金貨100枚。

これは家が2軒建てられる程の金だった。


事前の偵察で現場の指揮官らしき人物も確認されているので、その人物、即ちレオーネ大佐を倒す事が報酬を貰う条件となった。


この報酬に冒険者達は食いつかない訳がなく、クエストを受ける者は100人近くにまで達した。


だが、結果は悲惨なものとなってしまった。


クエストを受けた全ての冒険者がその日に襲撃に向かった訳でもなかったが、意気揚々と武器を持って陣地を襲いに行った彼らの殆どが帰ってこなかった。


生き残った冒険者達は口々にこのような事を話した。


無数の見えない矢が飛んで来て仲間の頭が吹き飛んだ。


何かが破裂するような音が聴こえたと思ったら自分の左手が引き裂かれた。


言葉は違えど全員に同じ何かが起こったのは明白であった。


陣地を攻撃した冒険者は半数以上を射殺、11人が捕虜となった。


この攻撃から、陣地の防衛設備が強化される事になり、対人地雷の設置、機関銃座の増設、更には物資と共に物資集積所に置かれていた2cmFlak 38や5cm leGrw 36迫撃砲などを設置した。


これ以降からもう敵は誰も来なくなった。


そして、捕虜からも情報を得ることが出来た。


そう、出来たのだ……


出来たのだが…………


「一体どういう事なんだ……」


これを知ったレオーネ大佐は総司令部にこの情報をどう伝えればいいのか分からなくなり、頭を抱えた。


もし、彼ら捕虜から聞いた情報が真実であるとすれば、最早四十勇者がどうとかそれどころではなくなってしまう。


任務の遂行が不可能になるからだ。


もし、捕虜達の情報…………




ここが元いた世界とは全くの別世界であるという情報が真実であるならば……。

* *

1621年 5月 14日 ロイス帝国の首都、アリダにて


軍の会議室では、様々な軍人が集まっていた。


ロイス帝国軍の軍人もいれば、世間一般では非正規軍扱いの亜人同盟軍の幹部も揃っている。


その中には、レオーネ大佐や亜人同盟軍総司令官、エドメス・メーリだけでなく、レオーネ大隊を転送した際、制御室で操作を行っていたロイス帝国軍直属の科学者、ニシル・ルビークなど、あの作戦に関わっていた全ての者が集められていた。


「つまり、レオーネ大隊が転送されたのは300年前のこの世界ではなく、全くの異世界だと?」


ロイス帝国軍の幹部の男が呟くように言った。


「あぁ、どうやら次元干渉装置に不具合があったようでな」


「改善は出来るのか?」


そう聞かれると、ルビークは肩を竦めた。


「正直に言うと無理だ。 血魔術は元々は大昔の魔術だ。 ほんの僅か再現出来ただけでも大成功と言ってもいいくらいだ」


「じゃ、じゃあ四十勇者の話はどうなるんだ!?」


「作戦そのものが意味を無くしてしまうではないか!」


ルビークが言い放ったのを発端に、会議室は大騒ぎとなった。


「静かに」


騒ぎ立てていた幹部達をロイス帝国陸軍大臣のクラデアド・フォン・エルダルトが鎮めた。


「確かに四十勇者所ではなくなったが、まだ希望はある」


幹部達がエルダルトをキョトンと見つめている。


「その異世界には、豊富な資源、人材があり、まさに宝の山と言っていいだろう」


エルダルトの言う通り、異世界が地球と同じ環境ならば石油や鉱山資源、その他の利益を得る事が出来る。


しかも、陣地を襲撃した敵の装備を見れば、文明レベルは遥かにこちらの方が上だと分かる。


国1つ占領する事などロイス帝国軍の支援を受けて活動している亜人同盟軍にとっては容易い事だろう。


そこで、作戦は変更する事になった。


「では、これからは四十勇者ではなく、あの世界にある資源を目標にするという事ですね?」


メーリがそう尋ねると、エルダルトは「あぁ」と頷いた。


* *

1621年 5月 19日


とうとう小隊を偵察に出す時が来た。

陣地の出入口にはキューベルワーゲンやSd Kfz251、オペルブリッツなどが縦列で並んでいる。


ベルクトはオペルブリッツに押し込められた状態で出発の時を待っている。


千切れた左腕も全快し、何時でも戦える。


隣にはルーデン・シュレーグがおり、前にはラネルがいる。


相変わらずラネルは女性には到底似合わないウィンチェスターM1897を胸に抱いている。


シュレーグはSTG44、ベルクトはPPSh-41を股の間に立て掛けている。


ラネルが腕時計で現在時刻を見るとベルクトに「もうすぐ出発です」と告げた。


「別にそこまでしなくてもいいのに……」と思ったベルクトだったが、口には出さずに「そうか」と相槌を打った。


「おっ、先頭のキューベルワーゲンが動き出した見たいですよ伍長」


オペルブリッツの荷台から顔を出して先頭の様子を見ていたシュレーグが言った。


それから少しするとオペルブリッツもエンジンの唸り声を上げながら進み始めた。


「なんか……300年前の世界でさえ面白そうだったのに異世界だなんて余計にワクワクしてくるな」


「ですね」


小隊を乗せた車列は警備の兵士に案内されて地雷原を抜け、舗装のされていない道無き道を進み始めた。




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