第5話 未知との遭遇 後編

「敵襲うううううぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」


ベルクトが今出せる最大の声量で放った警報は近場の兵士達の天幕にまで届いた。


「敵襲?」


「どこからだ?」


「勘弁してくれよこんな真夜中に……」


その声を聞いた兵士達はそれぞれの武器を手に取り、天幕から出てきた。


一方、ベルクトは剣を構えた謎の人物と対峙していたが……


「……人間様がこんな辺鄙な場所に何のようですかね?」


少し挑発混じりにどうやって、何故ここに来たのか聞いてみたが、案外素直に答えてくれた。


「ギルドに変な格好をしたゴブリン共がここら辺にいるという情報が来たのでな。 来てみれば基地まで建てている。 ゴブリンにそんな知恵は無かったと思うが?」


月明かりを遮っていた雲が晴れてやっと目の前の男の容姿を確認する事が出来た。


年齢は20代前後、装備は中世らしい鉄製の鎧にロングソード。


その顔から殺気は感じ取れなかったが、こちらを殺す気であるのは間違い無かった。


「生憎、ゴブリンじゃない俺に聞かれてもね。」


「じゃあ他のゴブリンにでも聞かせて貰うよ!」


そう言うなりいきなりロングソードでベルクトを突こうとしてきたが、腰に携えていた銃剣を素早く引き抜き、辛うじて受け流した。


「悪いが、対人地雷も設置してないのに敵に侵入されるのは不味いんだよ」


銃剣を右手に持ち、剣を中段に構える敵を見据え、攻撃のタイミングを計る……ように見せていた。


「どらァ!!」


左足を前に出すやいきなり右手に持った銃剣を敵に向かって投げたのだ。


「っ!?」


敵は突然の銃剣の投擲に驚いたが、間一髪でそれをロングソードで弾いた。


だが、それはベルクトの思い通りだった。


ズボンに挿し込んでいたガバメントM1911を引き抜き、左手が無いので片手で構えると、2発の銃弾を放った。


1発目は敵の頭上を通過し、2発目は肩を貫いた。


「あがっ!?」


突然の事に敵は理解が追い付いていなかった。

目の前にいた男が変な鉄の塊を構えて小さな爆発音がしたと思ったら右肩から血が流れていた。


銃創から焼け火箸を突っ込まれたような熱を感じると混乱により体勢が崩れた。


「よしっ!」


これをチャンスと見たベルクトは塹壕から這い上がり、敵から距離を取った。


相手が剣なら距離を離せば銃を持っている自分が勝てると思ったからだ。


ある程度距離を離すと振り返り、拳銃を目の前の敵に向けて構えた。


右肩から血を流した敵の表情はこちらを射殺さんばかりのものだった。


「おぉ、おっかねぇな」


「お前……一体何をした!?」


物凄い剣幕で睨み付けながら聞いてくる敵に対して銃口を向けながら答えた。


「簡単だ。 お前の右肩に穴が開いた、それだけだ。 技術の進歩って奴だよ。 魔法じゃないんだぜ?」


そう言いながらベルクトは右手に持ったガバメントを敵に見せつけた。


「そ、それは一体?」


「ガバメントM1911……カディーリ合衆国……人間の言葉で言う所のアメリカさんがお作りになった強力な自動拳銃だ」


ヘッタクソなガンスピンを披露しながら淡々と語るベルクトを見つめながら静かに言った。


「それが何かは分からない。 だけど、お前は今敵の前にいることを忘れるなよ」


「あ?」


敵がそう言い放ったその瞬間だった。

遥か前方から何かが月明かりを反射したかと思えば3本の矢がベルクトを襲った。


右腕に1本、腹部と胸部に1本ずつ食らったベルクトは血を流しながら仰向けに倒れた。


「ありがとう、お陰で助かった」


敵が振り向いた先にいたのは、あの時陣地の構築をしていた兵士達を偵察していた弓を持った男と魔女の様な格好をした女だった。


ベルクトを狙撃した際、男が矢を放つ時、放たれる矢に女が術式で加速させたのだ。


銃弾程ではないが、かなりの速度で飛んで来た矢をベルクトは避ける暇もなく身に受けてしまった。


「あなたがヤツを油断させてくれたお陰よ」


3人が互いに褒め合っていると、剣士の男が異変に気付き、倒れているベルクトの方を見た。


「どうかしたのか?」


「いや、今アイツが動いたような……」


「気の所為よ。 それよりも右肩の傷を処置しないと…」


魔術士の女が剣士の右肩に触れようとすると、突然ベルクトが起き上がった。


「おい……なに人の前でイチャコラしてんだぶっ殺すぞぉ!!」


怒りの方向性がおかしい気もしたが、復活したベルクトに剣士は反射的に剣を構えた。


「嘘だろ!?確実に致命傷の筈だ!」


弓を持った男はムクリと起き上がったベルクトを見てかなり驚いていた。


「ハッ!こちとら半分吸血鬼なんだよ。これぐらいで死んで溜まるかってんだ!!」


体に刺さった矢を右手で全て引っこ抜くと、地面に放り捨てた。

吸血鬼は皆、痛みを感じない。

その血を継ぐベルクトは人よりかなり痛覚が鈍い為、傷口に塩を塗り込まれても平気な程である。


「だったらまた蜂の巣に━━━━━━」


それが弓を持った男の遺言となったのであった。


拳銃よりか遥かに大きい1発の銃声と一緒に、何か、肉が盛大に弾けるような音がした。


……正確には、弓を持った男の頭が吹き飛んだ音だったのだが。


「……え?」


突然目の前の仲間の頭が無くなり、血飛沫と頭上と脳の破片を浴びた2人はそこに横たわっている首無しの死体を数秒見つめた。


「い、あ……あ、あ、ああぁぁぁあ……」


「ななな、な、なんだよ……これ……!?」


女は錯乱し、剣士は腰を抜かしていた。


そんな情けない姿を晒す彼らの元に近ずいて来る足音が聴こえた。


それは先ほどの銃声の発信源でもあった。


ウィンチェスターM1897を携えていたその兵士は、ジャコッと重々しい金属音を立てて空薬莢を排出し、同じような音を立てながら次弾を薬室に送り込んだ。


そこにいたのは……間違いなく、確かにそうだった。


……彼が一番よく知る人物だ。


幼少期からずっと共に生きてきた幼馴染であり戦友であり、良き理解者でもある。


その人の名前は………………


「ベルクト伍長、ご無事……ではないようですね」


ゲド・ラネル。 亜人同盟軍所属の上等兵。


仮面の兵士とあだ名された彼女は、月明かりに照らされ、とても美しく見えた。


両手で握り締めた死の象徴を手にしながらも……。


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