終章 俺たちダストバスターズ!

夏休み明け

 あれから夏休み終了までは、地獄の日々だった。城の修復にどれだけ時間が掛かったか。


 パイロンが現場を指揮して、俺も壁の修繕を手伝って。夏休みギリギリまでこの調子。


 よもや、俺が左官屋の代行までする事になるとは。


 しかし、忙しかったが楽しい日々だったと思う。


 あれだけの充実した時間は体験できないだろうという密度の高さだった。


 始業式が始まってからは、パイロンとは会っていない。真琴も姿を消していた。


 やはり、あの出来事は幻だったらしい。



 俺はまた、日常へ帰るのだ。


 とはいえ、バイトはクビになったし。

 新しい仕事先を見つけないと。


 今日から転校生が来る、と担任が告げた。


 こんな時期に珍しい。


 一七歳にしてはワガママすぎるボディを我が校の制服で包み、女生徒が黒板に自分の名前を書く。


能美のうみいろはです。よろしく」



 なんと、パイロンが俺の高校に転校してきたのだ。



「パ……!?」

 パイロンと言いかけて、俺は口を両手で塞ぐ。


『能美いろは』ことパイロンは、当然のように俺の隣に座る。

 まるで、あてがわれていたかのように。


 その隣には、志垣真琴も当然のように存在していた。


「真琴も、いなくなったとばかり」

「込み入った事情がありまして、留守にしておりました」


 それより、パイロンだ。


 よりによって俺の学校に転校してくるなんて。

 一度、高校に侵入してきた事はあったが、今回は正式にウチの生徒として現れた。


「お前、どうしたんだよ!」

「城、追い出されちゃった」


 まるで他人事のように言い放つ。


「城は元に戻したじゃないか!」


「戻ったよ。けどね、『壊したのはお前だから』って、魔王城の修繕費回収が終わるまで、魔王城の自室使用を禁止されたの」


 つまり、金ができるまで帰ってくるな、と。


「パソコンまで取り上げられちゃった。ス魔ホが回収できただけでも奇跡だよ」


「しかし、どうして追い出すなんてマネを」


「爽慈郎が悪いんだよ?」


 俺がだと? ちょっと心当たりがないんだが。


「だって、勝手に冒険者用の落とし穴を掃除道具入れに改造したでしょ? 針が落ちてくる天井トラップも収納棚にしてるし、本を動かすと棚が動く隠し部屋もウォークインクローゼットに作り替えてるし。パパ、カンカンだったんだから」


「ラストダンジョンとして機能していない魔王城の方が悪い。有効活用してもバチは当たらないだろ」


「そういう所でパパを怒らせちゃったんだって」

 パイロンが頬を膨らませる。


「それで、修理はどれくらいかかりそうなんだ?」


「一年半だって」


 卒業までか。

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