やっちゃった♡

「パイロンは、決していらないものを見捨てない。彼女にとって、不必要な物なんてないんだ。どれも、いずれ何かの役に立つんじゃないかって」


「確かに、そういった見方もあろう。だが結果的に、城じゅうがモノで溢れてしまったではないか?」



「その通りだ。けれど、そんなヤツだからこそ、こんなにも慕われる」


 俺は、周りを見渡した。

 パイロンを頼り、慕ってきた仲間たちを。



「それでは、魔王城はイレギュラーにまみれしまうではないか?」


「あんたの言うとおりだ。だから、俺が必要になる。モノを選別し、適所に送り込む俺がな!」


 俺も、パイロンに道を示してもらった存在だ。


 パイロンが持て余すアイテムなら、俺が適切な場所へ誘導すればいい。


 パイロンが俺をそう思ってくれるなら、これ以上嬉しいことはないが。


「少なくとも俺は、パイロンと考えてることが一緒だと思いたい」


「爽慈郎……」


「もし、あんたが俺を魔界から追い出すって言うなら、俺はパイロンを連れ帰るまでだ」


 パイロンの前に立つ。パイロンの細い指を掴む。


「俺はただの人間だ。しかし、誰よりもパイロンを大事にする自信がある」


 ザイオンが沈黙する。


「面白い。では、好きにせい」


 俺達の言葉が届いたのか、魔界の王が折れた。


「ということは……」


 俺は、ここにいてもいいのか。


「やったーっ!」


 パイロンが、抱きついてきた。


「わたし、信じてたよ。パパを説得できるって」


 買いかぶりすぎだ。


「でも嬉しかった。お前が必要だって言われたとき」


「だって、お前が散らかしてくれないと、掃除できないからな」


「……あ?」


 聞いたこともないような低い声が、パイロンのノドから漏れた。


「いやあ、お前くらい部屋を散らかしてくれるヤツなんてそうそういない」


「そんなぁ。むむむぅ!」


 パイロンが手をかざす。手の平に火の粒子が集まって圧縮される。


「わ、バカ! 何する気だ!?」


「もう爽慈郎なんて知らなーい!」


 疑似太陽かと思わせる程の、特大級火炎弾が飛んできた。


「落ち着けって! ぬわー!」


 紙一重で、火の弾を回避できた。


「あ」

 火球が壁に迫る。


「やめろおおおお!」

 魔王の絶叫が、魔界じゅうに轟く。


 だが、城は回避なんてできない。パイロンの怒りを受け止め、大爆発を起こす。火の弾は城壁を穿つ。


 土煙が上がり、俺達の視界を奪う。


 煙が晴れると、立派な城に風穴が空いていた。


「ワシの城がぁーっ!」

 頭を抱えながら、魔王がヒザから崩れ落ちる。


「やっちゃった」


 パイロンが自分を小突く。

 テヘ、と言葉で言うヤツを初めて見た。

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