パイロンがモノを捨てられなかった理由

 空をドラゴンの巨体が塞ぐ。


 クジラかと思わせる程の強大な古代竜が、ゆっくりと舞い降りる。

 相当遅い速度で降下してきたはずなのに、地鳴りが響く。


 一瞬、身体が宙に浮いたぞ。


「我が宿敵ザイオンよ。お主の計画こそ見破れなかった。が、娘を介してとはいえ、余とお主の仲を繋ごうとしてくれたぞ。この男、あなどれぬ」

 

 ダストドラゴンが、ダメ押しの説得をしてくれた。


「なんと。魔界支配者の始祖、塵竜ダストドラゴンまで味方に付けるとは。末恐ろしいヤツよ、人の子よ」


 俺は何もしていない。

 気がつけば、俺の側に付いてくれていた。

 ほとんどの功績はパイロンだろう。


「それだけ、お主が魔界にとって、我が娘にとって、重要な立ち位置にいると言うことか」


 無言で肯定する。


「我が娘は、留まって欲しいと行ってるが、お主はそれでも自分の世界に帰ると?」


 その通りだという言葉を飲み込む。もう、自分でも分からない。


 懇願するように、パイロンが俺を見ている。


 俺はどうしたいんだ? しばらく考える。


「お主の意志を聞こう。魔界に留まりたいか、地球へ帰りたいか?」


 それなら、答えは決まっている。

「俺は、俺には……」

 精一杯の勇気を振り絞って、俺は口を開く。


「俺には、パイロンが必要だ」


 オレは言いきった。魔王相手に。一歩も譲らず。


「貴様、自分が何を言っているのか、分かっているのか?」


「分かっている。その上で言う。俺には、パイロンが必要だ」


「それは、パイロンが留まれと言えば、魔界に留まるというワケか?」


 俺の側にいたいならいればいい。魔界がいいなら俺は帰るまで。


「それは、我が娘に決定権を譲渡し、自分は傷つかない姑息な思考ではないのか?」


「そういう意味じゃない」と、俺は首を振る。


「魔界の都合なんて知るか。一番大事なのは、パイロンの気持ちだろ」


 パイロンの意志は、俺にも分かってるんだ。


「パイロンの居場所が俺の居場所だし、俺の居場所がパイロンの居場所だ」


「まるで、自分とパイロンが運命共同体だと言いたげだな」


「そうだよ。あんたの言うとおりだ」


 自分で言っておきながら、心臓が高鳴り出す。


 パイロンの動向を追って分かったことがある。




 こいつは、捨てられたものを放っておけない。




――在庫じゃない。


 フリマで、パイロンはそうつぶやいていた。


 パイロンの性格は、この言葉に集約されるのではないかと思った。


 俺は最初、単なるもったいない精神からかと思っていた。だが違う。


 パイロンが持つ優しさから来るものだって分かったんだ。


 アラクネとのやりとりや、クヌギを心配する様子からも、見て取れる。

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