仲間たち

「パイロン、お前は魔界を背負う存在だ。勝手な行動は許さん」


「パパは黙ってて!」

 涙を浮かべながら、パイロンが魔王に抗議する。


 俺はパイロンの手を振り解く。

「またな」

 俺は、パイロンに背を向けた。


 これでいいんだ。これで。


「待て待て待て待てーいっ! 待ちやがれってんだっ!」


 ガタゴトと音を立てて何かが近づいて来た。物体は、俺の前まで来ると、急ブレーキをかける。


 玉座の間に現れたのは、ミミックだ。


「へっ、また会ったな」とミミックは短く挨拶をする。


「どけ。俺は帰るんだ」


「ああそうかよ! その前に俺の話を聞きやがれってんだ!」

 言ってから、ミミックは主であるザイオンに向き直った。


「ミミックか。何用だ?」


「用も何もあるかってんだ、おっさん!」

 あろうことか、ミミックが主を「オッサン」呼ばわりする。


「こいつはなあ、オレサマの虫歯を治してくれたんだ! あんたがこの野郎を追い出すってんなら、オレサマもあんたの子分を辞めさせてもらうぜ! 人間一人迎えられねえなんて、いくらなんでも器が小さ過ぎやしねえか? ああ、魔王さんよぉ!」


 ツバが飛ぶくらい、ミミックが魔王を罵った。


 ミミックだけじゃない。衣装部屋にいた亡霊達も踊りながら集まってくる。


「魔王様~。こちらの御仁は素敵な衣替えをなさって下さいましたわ。魔王城に必要な人材かと~」


 天井から糸を垂らし、アラクネも降りて来た。「おいだし、はんたい」と書かれたプラカードを持って。


「こちらの殿方は、我ら亡霊にも等しく接して、ダンスの場まで提供して下さいました。どうかお考え直しを」


 魔王ザイオンの側に、北の魔神が傅く。


「おお、北の魔神か。見違えたのう」


「魔王様、この人間は我に勝ちました」


 ザイオンが身を乗り出す。「お主をか……それは真実か?」


「左様にございます。それも、剣の知恵もなく、訓練もロクにしておらず、でございます」


 溜息が魔王から漏れ出す。


「ですので、この男は立派な騎士になることは必死かと」


 お褒めの言葉はありがたい。だが、遠慮しておく。俺は掃除屋がいい。


「皆さん、爽慈郎様がこの城に必要であると主張しております。魔王ザイオン様、どうかお考え直しの程を」


「それがしからもお願いする。爽慈郎殿がいれば、この城の清潔感は保たれる」


 最後に真琴が加勢し、クヌギが魔王の前にひざまずく。


「お主らがそう言ったとはいえ、人間を我が城に迎えるのは」

 玉座に集まった配下たちから、ザイオンが視線をそらす。


「ならば、余なら文句はあるまい?」


 荘厳な声が上空から聞こえたかと思えば、空が真っ暗になった。

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