すべてお見通し

「え? パパ、ウチに帰ってきてたの?」


「さて、何のことやらな」

 大袈裟に、ザイオンのオッサンはパイロンから視線を逸らす。


「おいおい、こっち向けよ。やましいことがなければこっちを向けるだろ?」


「知らぬと言っておろう!」

 ザイオンが怒鳴る。


 声を発しているだけなのに、世界が揺れた。

 比喩じゃない。

 本当に世界が揺さぶられたのである。


 よろめきそうになるのを踏ん張った。


「爽慈郎というのは、貴様だな?」

「ああ。俺がダストバスターズの社長、冷泉爽慈郎だ」


 架空の会社を騙り、胸を張る。バイト先の社名を言えば、何をされるか分からない。


「学生で社長か」

「悪いか? 何か問題でも?」


 俺が問いかけると、「いや、特に」と魔王ザイオンは首を振る。


「パイロンがお前を雇ったのか?」

「その通りだ」



「そうか、では死んでもらう」



「問答無用か!?」


 ザイオンが片手を俺に向けてかざす。


 熱の籠もったオレンジ色の光が、圧縮されていく。


 焼かれる。俺の頭が全力で警報を流す。


 避けるにしても、避けてどうにかなる攻撃じゃない。軽く触れただけで蒸発してしまうだろう。殺菌の具足ですら、役に立たない気がする。




「パパ、やめて! この人は、わたしの事を手伝ってくれたの!」



 俺を庇うように、パイロンが俺の前に進み出た。



 ザイオンの手の中にあった光が、みるみる収縮されていく。


「人間よ、パイロンとは、どういう関係かな? 本当に雇われただけか?」


「こいつの抱えている厄介事を、片づけていただけだ。この二人は素人だからな。その点、俺はプロというかマニアだから、多少の知識があった。だからやり遂げただけだ」


 具体的な描写は避けて告げた。ウソは言っていない。


「お主でなければ、できん事だったのか?」


「俺が一番早く、こいつらの問題を片付けられると、パイロンは判断した」


 できるだけはぐらかす。


「隠さずともよい。私は全て把握した上で、お主と話しておる」


 全部お見通しってワケか。そりゃそうか。ピザ屋に変装して様子を見に来てたもんな。


 全ての希望を失ったような表情を、パイロンが浮かべる。


「おおかた、娘が散らかした部屋を片付けろなどと言われたのだろうて。その点は、すべてこちらもお見通しである」


「全部お見通しってワケか。そりゃそうか。ピザ屋に変装して様子を見に来てたもんな」


「あれは違うと言うに」


 まだごまかすか。


「では、パイロンは魔王失格か?」


「ぬう?」


「パイロンは自分なりに、一生懸命やってきた。それでもあんたは、こいつを認めないってのか?」

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