第七章 最後のお仕事
魔王ザイオン、帰還!
もうすぐ、夏休みも終わりを迎える。
若干の遅れがあったが、その分周りの助けを借りて、期日までには掃除が完了しそうだ。
あれほど片付けを嫌がっていたパイロンが協力的になったのが、何よりの収穫である。
俺とパイロン、真琴、クヌギは、パイロンの部屋にあるコタツを囲んでいた。
ただし、俺は何一つ掃除をしていない。今やっているのは、夏休みの宿題である。夏休みの間に城まで持ち込んでいたのだが、する暇はなかった。
掃除作業はガイコツに委ね、俺は宿題に取りかかっているのだ。
「ほら、そこ、計算式間違えてる」
眼鏡をかけたパイロンが、俺の解答を指摘する。まるで家庭教師気取りだ。
このときばかりは、俺とパイロンの立場が逆転した。
「それにしても意外だね。勉強もそこそこできるなんて。教える事なんてほとんどないよ」
「プロ清掃員、それも経営者になるには、国家資格も必要だからな」
コタツテーブルの汚れを拭き取って、俺は汗を拭く。
ほぼ一夜漬けだが、どうにか宿題も終わりそうだ。
「よし、終了だ」と、俺はノートを片付ける。
同時に、「掃除も完了です」と、真琴が魔法の本をパタンと閉じた。
俺たち四人は、小さく拍手をした。コーヒー牛乳でささやかな祝杯を挙げる。
一時はどうなるかと思ったが、ようやく終わりを迎えたのだ。なにか、感慨深い。
「お嬢様、お電話です」
真琴のス魔ホが震え、パイロンと代わる。
「もしもし、ああ、パパ。うん。わかった」
パイロンが電話を切った。
「パパ、帰ってきた」
とうとう、魔王が帰ってきた。
間に合ったが、俺は、魔王と鉢合わせすることになったのだ。
名指しで、俺を指名してきたのである。
魔力の塊のような物体が、玉座に座っていた。
「おい、紫色の火にしか見えないぞ?」
どうしても、俺には火だるまになった人間にしか見えない。
「あまりにも魔力の純度が高すぎて、視認できないのです。もうすぐ、人にも見えるようなお身体を形作られるでしょう」
炎が人の姿を形作り始めた。「雷のような形のカイゼルヒゲ」を携え、「丸々と太った短足の中年」である。
「私はザイオン・ネゥム。パイロンの父親であり、
魔王が、俺を見てニヤリと笑う。
それだけで、俺はすくんでしまいそうになった。
だが、どこかでこの人物を見たことがあるような。
「あっ。あのときのピザ屋じゃないか?」
見間違えじゃない。あの時のオッサンだ。
オーバーオールを着せたらそのまんまではないか。とはいえ、その時と放つ威厳がまるで違う。
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