ダストドラゴン洗浄完了!

「トドメを!」

 頭を防御するように刀を構え、クヌギが前へ進んだ。


「待った。もういいんだ。クヌギ」


 クヌギの肩を掴み、後ろへ下がらせる。


「爽慈郎殿、何を」


「やっとあの古代竜を同じ土俵にまで引きずり込んだんだ。お膳立てはもう済んだ。ここから先は、パイロン自身のケンカだ」


 後は、ガンコ爺の頑固な汚れを落としてやる時間だ。年寄りの猫はタチが悪いからな。


「嵐を止めてくれ、パイロン。もう必要ない」


 パイロンがかざした手を下ろす。


 空は晴れわたり、今までの悪天候がウソのようだ。


「仲直りの印だ。お背中を流してやれ、パイロン」


 俺は、パイロンにバケツとデッキブラシを差し出す。


 目の前には、息も絶え絶えの古代竜が、うずくまるように身体を畳んでいる。


「お前にしかできない仕事だ。やるんだ」


「うん。わかったよ」


 こういうのは時間が解決してくれると思う。俺は、パイロンに全権を委ねることにした。


「では、お背中をお流しします」


 羽をはためかせ、パイロンはくたびれた巨大竜の背に到達する。


「よさんか。気恥ずかしい」


 思った通り、素直じゃないジジイだ。

 しかし、一旦ブラシが当てられると、塵竜はおとなしくなった。

 されるがままになっている。もっとグズると思っていたが。


「こういうの、初めてです。親とは洗いっこした事があるんですけど」


「うむ。左様か」


 なんとも、微笑ましい光景だ。


 みるみるうちに、塵竜を覆っていた細かい魔素が剥がれ落ちていく。同時に塵竜の怒気も、過去の因縁も、キレイに流されていくのを感じた。


「見ろ。毛玉が……」


 黒い毛が、白みを帯びてくる。


「おお……魔素が剥がれ落ちていくのう」


 興味深そうにクヌギが巨大猫の様子を窺う。


「黒猫だと持っていたが、元は白猫だったのか」


「私も、初めて知りました」


 やがて、塵竜の姿が真っ白い猫に変わる。


「さっぱりしましたか?」


「おお、実に見事な手際であった。ザイ……パイロンよ」

 始めて、塵竜がパイロンを名で呼んだ。


「これからは、いつでも竜の山へ来るがよい。ではさらば」


「帰るのか?」


「うむ。魔族と竜族の関係修復には時間が掛かるからのう。説得に参ろうと思う」


 元気になった塵竜が、翼を広げた。世界を覆い尽くすような大きい羽を。


「人の子よ、よき働きであった。だが、心せよ。ザイオンは私のようにはゆかぬだろう」


 そう言い残し、パイロンの先祖は翼をはためかせた。古代竜の姿が、空高く消えていく。


「よかったな。仲直りできて」


「うん。ありがと。爽慈郎」


 俺は首を振る。

「俺は何もしていないさ。お前が全部やったんだ」

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